インターネット検索で世界最大手のグーグルを率いるエリック・シュミット会長は、デジタル時代到来を機に、名誉と富を手に入れた実業家だ。コンピューター工学博士号を取得後、サン・マイクロシステムズ最高技術責任者(CTO)、リナックスメーカーであるノベルの最高経営者(CEO)を経て、01年からグーグルの経営を任されている。オバマ大統領に技術分野について助言するほど、政治的な影響力もある。
◆「コンピューター革命」の受恵者であるシュミット会長が最近、ペンシルバニア大学の卒業式の祝辞で、「アナログ的な暮らし」の重要性を強調した。シュミット会長は約6000人の卒業生に、「しばらくの間、コンピューターの『バーチャルな世界』から抜け出し、現実の真の人間関係を作っていく人生を送ってみるように」とアドバイスした。特に、「どんなことも、生まれて初めての一歩を踏み出す孫の手を握る喜びに代えられない」とし、「コンピューターをオフにし、携帯電話を手放すと、我々の周辺に人間がいることに気付く」と強調した。シュミット会長は、「お爺さんと孫」を例に挙げたが、職場から帰宅し、久しぶりに子どもを抱きしめたり、一緒に涙を流しながら働いた会社の仲間や先輩・後輩らと人間的な交流を楽しみ、心を打ち明ける「成就の喜悦」を味わったりするのも一緒であろう。
◆「日本のピーター・ドラッカー」と呼ばれる経営学者の野中郁次郎・一橋大学名誉教授も、同じく現場と人間を重視する。野中氏は概念化し、言葉で表現された形式知に劣らず、経験から蓄積された暗黙知を強調した上で、徒弟制度による経験的な知識の伝授が有用だと述べる。各分野で真のリーダーになるためには、現場と理論を絶えず研究しつつ、革新を引き起こすリーダーシップが必要だ。そのためには、哲学、歴史、文学など幅広い教養と、人間を理解する能力が求められる。実際、コンピューターを利用した技術的な分析に偏りすぎた米国など、西欧の学界でも最近、現実に目を向ける動きが目立つ。
◆コンピューター革命が、現代世界にもたらした肯定的な影響は数え切れない。しかし、若者がバーチャルな生活に病み付きになるあまり、現実の人間関係を疎かにする副作用を生んだ。いくら技術的な進歩が加速化するデジタル時代とは言え、人間の本質まで変わるわけがない。たまにはコンピューターをオフにし、周辺の「生きている人間」に関心を傾けたらどうかという言葉が胸に染みる。
権純活(クォン・スンファル)論説委員 shkwon@donga.com