「新しい原子爆弾を発射したような特大事変」、「人工衛星が一気にいくつも打ち上がるような驚くべき知らせ」
北朝鮮の報道機関が、咸鏡南道咸興市(ハムギョンナムド・ハムフンシ)の「2・8ビナロン(ビニロン)連合企業所」(2・8ビナロン)再稼働の情報を伝えた際の表現だ。同工場では、61年に初めてビニロンを量産された。祝賀大会には、金正日(キム・ジョンイル)総書記まで出席した。地方で開かれた住民大会に金総書記が参加したのは異例のことだ。北朝鮮が、工場一つの再稼働に大きな意味づけをする理由は何か。
●ビニロンで滅んだ北朝鮮
83年、金日成(キム・イルソン)主席は、平安南道順天(ピョンアンナムド・スンチョン)に年産10万トン規模のビニロン工場を建設するよう指示した。住民は、工場が完工すれば約400種類の化学製品の生産が可能なので軽工業の発展の土台となり、「白いご飯に肉のスープ」を食べることができるという宣伝を10年近く耳が痛くなるほど聞かされた。全国の事務所に、どれほど暮らしが良くなるかを数十の項目で示す図表まで掲げられた。
しかし、100億ドルを投資した同工場は、89年に第1段階の工事を終わった後、建設が中断し、巨大なくず鉄の山に転落した。金主席が承認したという理由で、実験室でのみ成功した「酸素熱法」という生産工法を、多くの科学者の反対を黙殺して無理に大型工業化したことが、失敗の原因だった。
結局、工場設備は90年代の「苦難の行軍」の間、中国にくず鉄として密かに売られた。順天ビニロン連合企業所は、約70億ドルを投資した「南浦(ナムポ)閘門」、約40億ドルを投資した89年の「第13回世界青年学生祝典」とともに、90年代初期の北朝鮮経済を破綻させた代表的なシンボルになった。
●再び取り出した「ビニロン」カード
その北朝鮮が、ビニロンを再び持ち出した理由は何か。年産5万トンにすぎない2・8ビニロンが再稼働すれば、北朝鮮経済が飛躍できるだろうか。結論は非常に懐疑的だ。ビニロンは、生産過程に莫大な電力と石炭を消費するため、ナイロンなどの別の合成繊維に比べて競争力が落ちるという評価を受けている。北朝鮮の現在の電力と石炭生産の状態を考慮すれば、2・8ビニロンの正常稼働はかなり難しい。たとえ正常稼働ができたとしても、海外販路の開拓も容易ではない。同工場は、61年から94年まで正常稼働された期間も、経済に大きな影響を及ぼさなかった。
にもかかわらず、北朝鮮が同工場の再稼働を原子爆弾や人工衛星にたとえて大々的な宣伝したことは、逆説的にデノミネーション(通貨呼称単位の変更)の後遺症と食糧難による民心の動揺を抑えるカードがないということを立証する。
北朝鮮は、「12年までに強盛大国を建設する問題、衣住の問題を解決する」と宣伝している。今のところは、2・8ビニロンの再稼働と平壌(ピョンヤン)の10万軒アパート建設が、衣住の問題を解決したと宣伝する唯一の好材料だ。
しかし、ビニロンは住民に大きな失望を与えた前例がある。今回も、2.8ビニロンが正常稼働できなければ、ビニロンに対する称賛が、当局に悪化した民心というブーメランとなって舞い戻る可能性がある。
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