「正義とは何か」というブームを巻き起こしたハーバード大学のマイケル・サンデル教授が、正義と倫理問題を打ち出す時に頻繁に使う事例が、実際の「代理母」にまつわる出来事だった。米ニュージャージー州に住むウィリアム・スターン夫婦は、妻が多発性硬化症を患い、子供を産むことができなかった。この夫婦は、不妊センターから代理母の紹介を受けた。代理母は、ウィリアムの精子と自分の卵子とを結合させた人工受精卵を子宮に着床させ、子供を産むことにした。スターン夫婦は金を払い、生まれてくる赤ちゃんの名前までつけた。ところがいざ赤ちゃんが産まれると、代理母は母性に引かれ、赤ちゃんを連れて夜逃げした。あの有名な「ベビーM」事件だ。
◆今なら、スターン夫婦は迷うことなく、インド行きを選んだだろう。インドは世界最大の合法的代理母市場だ。一人や2人の赤ちゃんを産んだインドの田舎の女性たちは、金をもらって不妊夫婦に子宮を提供し、時には卵子までをも提供する。彼女らは、妊娠期間中はすばらしい施設や奇麗な環境の中に泊まりながら、適切な栄養供給と運動をし、健康な赤ちゃんを産む準備をする。定期的に家族と面会することもでき、大金も手にできるので、家族たちも歓迎している。夫の中には妻に対し、代理母の仕事を強要する人がいるほどだ。
◆米国では、ハーバード大学などの名門大学の健康な女子大生が金稼ぎのために提供した卵子で受精卵を作り、インド女性の子宮に入れる富裕層独身男性も増えている。ハーバード大学出身者を妻に迎えることは容易ではないが、このやり方なら、オーダーメイド服のように優秀なDNAのみ借りることができるという。しかし、人は遺伝と後天的訓育との結合的産物であることから、母性の世話無しにDNAのみ優れているからといって、よい子供を持つことができるわけではない。
◆代理母が生んだ子を、誰の子として認めるかは、大変敏感な問題だ。精子提供者の子か、卵子提供者の子か、産婦か。韓国の民法では、出産事実で母子関係が成立するとみなしており、代理母が生んだ子の親権は、その代理母にある。国内ネット上でもこのような代理母紹介サイトが何十件もあるが、信頼性は落ちている。しかしインドは違う。インドの法律によると、代理母が生んだ子は、出産を依頼した人の子だ。このような法律的支援のため、インドの代理母産業は年間2兆6000億ウォン規模へと成長した。そういった理由から、インドの代理母市場を訪れる韓国人も増えているという。
鄭星姫(チョン・ソンヒ)論説委員 shchung@donga.com