オリンピックマラソン金メダルの裏には死神よりも恐ろしい監督と、地獄のような訓練があった。日曜日に行われたシドニーオリンピックの女子マラソン優勝を勝ち取った日本の高橋直子選手(28)と小出好夫監督(61)。日本の女子マラソン史上、初の金メダルを獲得した高橋の栄光は、常識では考えられないような地獄訓練と、小出マジックと呼ばれる監督の執念が作り出した作品であるとされ、大きな話題となっている。
二人は今年の7月、高度3500mのアメリカのロッキー山脈で高地訓練を行った。植物すら育たない山地で、2週間毎日24kmの登り坂を走った。一言で言えば常識外れの訓練法だ。周りからは行き過ぎた高地訓練で選手の生命にも支障を来たすのではないかと懸念された。しかし小出監督は世界一になるためには他の選手もしているような訓練では足りないと言いながら、そんな懸念を一蹴した。この訓練によって、監督自身も76kgだった体重が60kgまで減ったという。それだけではない。小出監督はシドニーオリンピック現地での適応訓練においても35km地点が勝負の分かれ道だと見て、32km地点付近に訓練キャンプを作り、上りと下りが繰り返される32〜37km区間で毎日2回ずつスパート訓練を繰り返した。
結局、高橋はこの34km地点でサングラスを脱ぎ捨て、ルーマニアのライダ・シモン(Lydia Simon)を抜き、独走し始めた。平凡な高校の教師だった小出監督がマラソンコーチに変身してから12年目。彼はやっと世界最強の選手を育てるという夢を叶えたのだった。小出監督の指導哲学は枠を決めず、各選手の個性と意見を尊重するというもの。科学的なデーターにも頼らない方法である。