ある百姓が自分の畑の麦がよく伸びなかったことを懸念し、麦の穂を土の上に引き出しておいた。それから満足した顔で家に帰った。「今日は俺が麦を伸びるようにしておいたぞ」と言いながら家族に自慢した。翌日、彼の息子が畑に行くと、麦はもう枯れていた。
先週、金大中(キム・デジュン)大統領が最近の経済低迷に対して、国民に謝ったとの話を聞いてこの昔話が思い浮かんだ。数ヵ月前だけでも経済危機から成功的に蘇ったと喜びながら、外国人まで招いて‘盛大なお祝いパーティー’をしたのではないか。3年前、経済危機に瀕した際に、経済の穂を根刮ぎ引き抜いておいて、それを危機からの脱出だと錯覚していたのではないかとの気さえした。
昔は、文字通り穂を引き抜くような成長が流行した。1980年代の重工業、1990年代の石油化学、そして金融業に対する度の過ぎた投資がその典型であろう。想像もつかない規模の大型工場が完工することを見て満足したことも多かった。しかし、そんな産業は結局、リストラの対象になっている。投資額にも及ばない安い価格で外国へ売り飛ばされ、何の罪もない労働者は道端に追い払われている。
問題は、このような穂を引き抜くような成長には便法が避けられないということだ。税金の値引きや低利の資金を支援するなどの特別優遇が付き物だ。そのため、いわゆる権力階層と親しい人々が許可を得て事業を始めるようになる。
最近、リストラの真っ只中にある金融業やベンチャーも例外ではない。過去、政権が変わる毎に銀行、総合金融会社、保険会社、信用金庫を新たに許可した。金融業の経験が皆無な人も、権力階層と知り合いの場合、また、政治資金を捧げた代価として金融会社を持つことになる。
こんな会社はだいたデタラメな道をを辿った。金融業の経験が皆無だったゆえに、監督院の出身などを社長として迎え入れたものの、十中八九経営に失敗した。
一時期、30行を越えていた銀行は今や20行前後に減ってしまい、今後は半分程度しかその命脈が保てないだろう。保険会社も信用金庫も同様だ。信用金庫と総合金融会社は今やその名称さえも無くなる運命だ。雨後の筍のように100社以上も乱立していた総合投資会社も、何社看板を下ろすことになるか予測しがたいという。
こういう状況で経済危機を迎えてくる。いや、既に危機が迫っているかも知れない。過去に例を見ない好況だと称えられてきたアメリカの経済も今や下り坂を辿っている。経済専門家は長期不況の兆しを警告している。初めから1、2年で危機を乗り越えることが不可能だという事実を再確認せざるをえない。
政府が一時、モデルとしようとしたスイス、オーストリア、オランダなどのヨーロッパの中堅諸国は、経済成長率を2〜3%水準を越えないように調節するという。我々も10%を越える高成長とマイナス成長を繰り返すよりは、むしろ2%台の安定成長を続く方が望ましい。その代わりに教育、環境、医療部分に集中投資してほしい。
今こそ、穂を引き出すような誇示型政策は諦めるべきである。多少時間がかかるとしても落ち着いて危機を乗り越えよう。万が一、次の選挙のために、景気のテコ入れ策を急ぐことが再発すれば、それこそ憂慮すべきこととしか言わざるを得ない。