朝鮮民主手主義人民共和国(北朝鮮)の金正日総書記の長男、金正男氏が偽造旅券を所持して日本に不法入国を図り、国外退去された事件は、常識では理解できないところがある。
金正男氏はなぜ偽造旅券を使わなければならなかったのか。しかもよりによって中南米のドミニカ共和国の偽造旅券だったのか。金氏と同行した30代の女性2人と4才の男の子らの身元と、日本訪問の目的は何であったのかなど、不審な点だらけだ。
日本の一部マスコミで報じているように、金氏が果して以前にも偽造旅券で日本に入国したことがあるのか、今回の場合、米国の中央情報局(CIA)が事前に情報を日本側に提供していたとすれば、その背景には何があるのかも疑問だ。
何といっても、北朝鮮の最高指導者の長男として内外の注目を集めている人物が、偽造旅券を使って不法入国を試みたという事実だけでも、同じ民族として当惑と羞恥心を隠しきれない思いがある。金氏の訪日目的についても「観光」「情報技術(IT)産業の見学」、「帝王学の修業」など様々な憶測があるようだが、どんな理由があるにしても、不法入国を試みた事実は許されないことだ。
国際社会では、北朝鮮のことについて、「隠遁する国」「兵営国家」「王朝国家」などと、いまなお異常な国としてみる目が少なくない。北朝鮮が真に国際社会の一員となり、海外からの投資を誘致するためには、「怪しい国」という、否定的なイメージから改めなければならない。
北朝鮮は近来、国交を結ぶ国の数を大幅に増やし、欧州連合(EU)の代表団を招請するなど、積極的な対外政策を展開してきた。その最中、突如と発生した「金正南事件」を、国際社会がどのように受け止めてくれるのか、懸念される。
北朝鮮は、今回の事件を機に「国際社会の基準」にふさわしい行動を取ることで、国際社会の信頼を築いていかなければならない。北朝鮮がそのように努力する姿をみせてこそ、「正常の」国際社会の一員として認められるはずだ。
日本政府は、今後の朝日関係を考慮したらしく、マスコミに対して最後まで彼の身元を確認しないまま、4日午前中国に国外退去させた。われわれは、この度の日本政府の慎重かつ迅速な事態の処理を高く評価したい。北朝鮮を国際社会の一員に導いていくことは、韓・米・日の3国共通の重要課題である。
われわれは、その点で今回の事件が、今後の朝日間の国交正常化交渉において、万が一でも障害になるようなことは望ましくないと思う。