一体国民を何だと思っているのか。国民の側に立って厳しい法執行の責任を果たすべき法務部長官が「政権再創出のためにあらゆる努力を尽くす」という「忠誠心あふれるメモ」を残したとはあっけにとられるばかりだ。
一言でいって、 安東洙 (アン・ドンス)氏は新任法務部長官として資格がないというのが我々の判断である。安法務部長官が党支部委員長を務めている民主党ソウル瑞草(ソチョ)乙党支部が21日、就任式の直前にソウル地方裁判所のプレスルームに送ったとされる「就任の辞」草稿は忠誠を誓う内容でぎっしり埋められていた。「大統領閣下に命を奉げて忠誠を尽くす」という表現が2ヵ所も出てくる。
文書の中で、政権再創出を強調しながら何度も忠誠を誓ったのは、ひたすら大統領の意に即した形で務めたいという本音を露呈したものである。場合によっては、法律を無視することも憚らないという話に聞こえる。これまで人権弁護士と自らを称してきた彼が、封建王朝時代を思い出させるような「泰山のごとき聖なる恩恵」云々するのも良識を疑わざるを得ない表現だ。
安法務部長官の側近は、問題になった文書は彼が直接書いたものではないと言い訳している。同僚の弁護士が彼に頼まれた就任挨拶の草案を党支部事務所に送ったのを、女性社員がそのままタイピングしてプレスルームに送ったとしている。彼は問題の文書は見たこともなく、実際の就任式では法務部で作成した就任の辞原稿を読み上げたとのこと。
しかし、党支部事務所の関係者らは、彼が21日午後、自らパソコンで文書を作成して出力したと述べ、当時の状況を具体的に証言している。彼らは21日には安法務部長官自らが文書を作成したと証言していたが、波紋が広がりはじめた翌日には「何も知らない」と否定している。反って釈然としない部分だ。
話の前後からして、この文書は安法務部長官が就任にあたって、金大中(キム・デジュン)大統領に伝えたいことを前もって原稿に作った可能性が高いとされている。事実を偽って、危機を逃れるために彼が嘘をついているとすれば、尚更許されないことになる。
たとえ彼が作ったものでないとしても、問題の文書の出所が彼の事務所だという事実だけで弁解の余地がない。同僚の弁護士も「彼の日頃からの所信を私が作成しただけだ」と釈明したというのだから、繰り返して指摘するまでもない。
安法務部長官の「忠誠誓約文書波紋」は、単なるハプニングで終わるべきものではない。彼が法務部長官の座に就いている限り、法執行の公正さは疑われざるを得ないだろう。過ちを正すのは早ければ早いほど良い。