「8・15民族統一大祝典」の余波がついに政権基盤であるDJP共助まで揺さぶっている。これまでの過程はどうであれ、結果的に北朝鮮が仕掛けた罠に韓国側がかかったという思いさえする。北朝鮮は、保守右翼だとか反統一勢力だとか言って、これまでも意図的に南南葛藤を助長してきた。今度は「8・15祝典」を葛藤の起爆剤にしようとしているようだ。
林東源(イム・ドンウォン)統一部長官の解任問題をめぐって生じた与党民主党と自民連の亀裂を北朝鮮はどう眺めているのだろうか。自分達の意図が達成されたと祝杯をあげているのではなかろうか。
思うに、昨年の6・15南北共同声明以後、内部の葛藤と痛みをより多く体験すべきは、韓国側よりむしろ北朝鮮でなければならない。太陽政策通りなら、北朝鮮は「閉鎖の服」を脱いでいなければならず、今頃はそれに伴う痛みと葛藤が現れていなければならない。しかし、いざ騒がしいのは、北朝鮮ではなく韓国である。なぜそうなのか。おそらく開放社会と閉鎖社会、民主体制と独裁体制の特性とその違いのためだと説明できるだろう。韓国は言論の自由がある社会であるため、騒がしくなるのは当然であり、北朝鮮は皆口をつぐんでいなければならないため、静かにならざるを得ないとでも言えようか。
しかし、韓国の現在の混乱は、このような安逸な分析の対象ではなさそうだ。自由民主主義という国家の根本理念が揺らいでいるのだ。真っ昼間に人共旗が掲げられ、北朝鮮の赤化統一案を公然と支持する勢力が現れても、処罰をするだのしないだのと及び腰になっているのが現実である。
最近はスパイという言葉も聞かれなくなった。そんな話を持ち出せば「この頃もスパイがいますか」と聞き返す人が少なくないだろう。場合によっては、冷戦の敵対概念をまだ捨てていないのかと声を荒くする人もいるかもしれない。社会が今回の波紋で騒々しくなる中、スパイに対する考えと認識さえ曖昧になってしまった。本当に南派スパイはもう伝説の中に消えたのだろうか。
西独の東方政策が盛んであった70年代半ば、東ドイツは和解の雰囲気につけ込んで、約1万人のスパイを西独に密かに送ったと言う。韓国の事情もこれと大差ないだろう。どこに目を向けても南派スパイが活動できる空間は、以前より広がっている。北側がじっとしているだろうか。
しかし、おかしなことに、近頃スパイを検挙したという公安当局の発表は一件もない。検挙実績がないからではないだろう。先ずは北朝鮮人の顔色をうかがっているようだ。南派スパイを検挙したと発表すれば、南北間に論争の種が生まれ、そうなれば思わしくないというのが公安当局の判断のようだ。
また、スパイを検挙したと発表することによって、太陽政策に対する認識が悪くなる恐れがなくはない。あらゆる支援を行なっている北朝鮮に対して一種の裏切りを感じ、そうなれば太陽政策の実効性に対する疑問が、自然に生まれてくるだろう。
事情はどうあれ、政府がスパイ検挙まで揉み消すほど、北朝鮮の顔色を見て機嫌をうかがっている状況で、いかなる「太陽の效果」が期待できようか。むしろ今後も北朝鮮のやり方に振り回されるのがおちであろう。北朝鮮が送った一枚のファックスを信じて、「8・15祝典」への出席を許した政府の行為がその典型的な例である。
現政権はもう少し冷静に南北関係を見定めて判断する時が来た。残り1年余りの任期内に、何かを成し遂げようと遮二無二なれば、これまでの成果までも全て失うかもしれない。もはや南北対話が、急を要するとは思われない。韓半島周辺の情勢をよく見れば、北朝鮮との対話が途絶えたからといって、すぐに黒雲が押し寄せるということはない。また韓国がしがみついたところで、北朝鮮が気軽に対話に応じるといった状況でもない。焦りを見せ、まるでせかされるような韓国の姿が、情けなくもさえ見える。
今後混乱がさらに増せば、政権も社会も共に崩れるかもしれない。北朝鮮だけに目を向けるのではなく、韓国内部に目を移して結束することが急務である。次期政権になっても效果的な対北政策が推し進められるように、その基礎固めをすることが、現政府が今しなければならないことなのだ。
ナム・チャンスン(論説委員)
南贊淳 chansoon@donga.com