「イスラム文明の正しい理解—イスラム」
イ・ヒス、イ・ウォンサムほか著
チョンア出版社
国連が今年を「文明間の対話の年」に定めたのを機に、イスラムに対する関心が高まっている。
新聞やテレビ・ラジオ放送でもイスラム文化圏に対する紹介番組が増えている。ところが、世界人口の5分の1を超える13億もの人口を抱え、55ヵ国に及ぶ巨大なイスラム文化圏に対する我々の知識は、非常に頼りないもので、その上至る所に間違いだらけという始末。OECD諸国の中でイスラム圏に対する研究が最も後れている、という汚名さえ付いている。遅れ馳せながら、韓国の中でイスラムに対する関心が高まっていることは、幸いなことといえよう。
イスラムは、宗教体系だけでなく、生きることと宗教が一体を成した独特な価値観を持っている。そのため、ムスリムたちの日常的な暮らしぶりと、彼らの宗教的律法の間の違いを見分けることは非常に難しい。政治・経済分野だけでなく、戦争・交渉などあらゆる生活領域において、彼らが常にイスラムの旗を全面に押出しているように見えるのもこのためだ。イスラムは、少なくともムスリムたちにとっては、暮らしそのものと同一視される。これが、政教分離の世俗的価値観に慣れ親しんでいる西洋人と我々が、イスラムを正しく理解できなくすると同時に、本当のイスラム世界を知る上で最も大きな足かせとなっていた。そのうえ、我々はこの50年あまりの間、イスラム圏と鋭く対立してきた米国中心の思考と認識の枠の中で、イスラム世界を理解してきた。
ようやく我々も、イスラム世界を正しく理解する上で、お手本にできるような本に巡り会えた。世界最大の宗教文化圏といわれるイスラム世界に対する我々の認識が、わい曲と偏見に満ちているということに歯がゆい思いを抱きながらも、その疑問に対して明快に解き明かした本は今までになかった。僅かにある本は、あまりにも学問的であったり専門的なものであるため、一般人が簡単に近づけるような内容を盛込んでいるとはいえなかった。さらに、非専門家による翻訳中心の本は、堅苦しいのに加えてイスラムに対する理解不足から、むしろ誤解を倍増させるような印象を拭えなかったのも事実だ。
この本は、何といってもイスラムを宗教ではなく文化的体系として受止め、イスラムの教えだけでなく、ムスリムの日常生活を幅広く取上げているという点で、その価値を高く評価したい。この本は、イスラムの根本的な原理を紹介し、続いて「片手に刀、片手にコーラン」という言葉の虚構性、ジハードとイスラム原理主義の実態、パレスチナ紛争の展開及び解決策、少数民族紛争と流血衝突の背景、イスラム法律の内容、一夫多妻制度と女性に対する抑圧の問題、文学と芸術活動、ムスリムの食べ物とタブー、冠婚葬祭、イスラム国家を動かす指導者たち、イスラム地域の世界文化遺産など、イスラムとイスラム文化に関する主題と内容を網羅して収録している。
イスラムが芽生えた中東は、人類初の文明を花咲かせた土地である。イスラムは、様々な理念が共存する調和の産室といえる中東地域を中心として、1400年もの間和解と容赦、折衝と合意を通して平和な共存を追い求めてきた。ところが、西欧人たちはイスラムが好戦的な宗教であるかのごとく、歴史的な拠所もないまま「片手に刀、片手にコーラン」という言葉を全面に押出して、自らの侵略を正当化してきた。とりわけ20世紀に入り、中東全域が強大国の植民統治下に置かれ、民族と宗派間の紛争と葛藤が絶えず発生している。強大国への抵抗手段をなくしたごく少数のイスラム急進勢力が、暴力闘争を展開しているものの、イスラム圏にも我々と同じ血の通った、人間味あふれる純粋な人々が生きている、というのがこの本の説明である。
ムスリムは、人間の誕生から成長・結婚・死に至るまでの全生涯が、徹底して神の意に沿って成り立っていると信じている。この本は、生活と言語・通過儀式などを通して、ムスリムの暮らしぶりを客観的な見方で追っている。
特に、統一新羅時代から始まり高麗と朝鮮初期まで続いた、韓国とイスラム圏間の歴史的な文化交流と相互間の文化的影響についても、興味深く扱っている。さらに、サウジアラビアが世界最大の小麦生産国として浮上しているという説明に至るまで、数々のホットで興味しんしんの内容が、驚きを誘っている。
2年越しの膨大な執筆作業には、国内の著名なイスラム関連学者が12名も参加している。イスラム圏国家で博士号を取得した専門学者らが、それぞれの留学していた地域で会得した現場での体験と、現地のホットな情報をこの本の中に盛込んでいる。何といってもこれが、この本の持つ最大の強みといえるだろう。また、各章ごとの副題からも分かるように、分かりやすい文体を使っており、内容においても平易な文章と詳しい説明をバランス良く使い分けることで、大衆的な文章の書き方にも成功をおさめている、という点が引き立つ。
多数による共同執筆であるため、一部のところで不自然な文脈の流れがみられ、叙述の一貫性に欠けるという点を指摘することもできようが、この本の持つ重要性に比べると、その非は微々たるものに過ぎない。
遥か統一新羅時代から我々の文化と密接に交流してきた世界。原油の70%を導入しており、最も重要な経済的パートナーとして浮上している地域が、イスラム圏である。いつにも増して、イスラム世界と東アジアの対話と協力が求められる時期に登場したこの本が、イスラムとイスラム世界をより客観的に理解するとともに、韓国とイスラム圏諸国との関係を正しく確立する上でも貢献できることを期待したい。
ソン・ジュヨン(韓国外国語大学アラブ語科教授)