ニューヨークの世界貿易センタービルとワシントンの国防総省の建物(ペンタゴン)などアメリカ中心部を襲ったテロの大惨事が、金大中(キム・デジュン)大統領と彼の忠実な家臣グループである東橋洞系旧派を政治的苦境から救い出したことは明らかのようだ。彼らが不満を抱いている主要保守新聞社を含むすべての新聞社が、この驚愕に耐えない事態の報道で、ほとんど全紙面を割いており、当分取り沙汰されると思われた政治争点が消え去った。TVの前に集まった人々は、ハリウッドのブラックバスターで見られるような衝撃的な場面から、なかなか視線をはずせず、そうしている内に、ほんの数日前にあった金大統領の「不可解な人事」は早くも脳裏から消え去られたようだ。さらに、カウントダウンに入った米国のアフガン攻撃が開始されれば、新聞と放送は「21世紀初の戦争」に集中するであろうし、そうなればいつそんなことがあったのかさえ忘れられるかもしれない。
しかし、果たしてそれでいいのだろうか。民主党党会議が「形式的な全会一致」ではあるものの、韓光玉(ハン・グァンオク)大統領秘書室長を新党代表に承認して、人事権者である金大統領が任命状まで与えた後に騒いでみたところで何になるだろうか、と見過ごせることだろうか。そうは思わない。たとえ状況が覆せないとしても、明かにしなければならない。今回のことは、金大統領のリーダーシップおよび現権力の本質と切り離して考えられない問題だからだ。
先ず、事実を再整理する必要がある。9月3日、林東源(イム・ドンウォン)統一部長官の解任建議案が国会で可決され、民主党と社民党の連立政権が崩壊した。9月6日進退を保留していた李漢東(イ・ハンドン)首相が政府残留を宣言し、韓秘書室長の民主党代表内定説が報道された。同日、民主党最高委員らは会合を開き「現在の人事の流れに対して懸念を表明する」ということで合意し、その旨を金重権(キム・ジュングォン)代表が党総裁である金大統領との面談を通じて伝えることになった。しかし、金代表の大統領面談は成されなかった。9月8日午前10時、民主党最高委員らは、再び緊急会議を開き、個別発言録を大統領府に伝えることにしたが、既に金大統領が韓秘書室長を党代表に指名した後だった。9月9日、金槿泰(キム・グンテ)最高委員が、東橋洞系解体を要求。9月10日、民主党党会議が韓代表を承認。9月11日、権魯甲(ウォン・ノガプ)前最高委員が「東橋洞系解体は民主党解体も同然」と反駁。9月15日、金大統領が韓代表任命状を授与。
一連の過程で特に注目されることは、9月6日に党最高委員らが合意した「人事への懸念」の意がどういうわけか、党総裁である金大統領に伝えられていなかったという事実だ。党代表は無駄足を踏んだにすぎない。9月8日午前の緊急最高委員会議はしてもしなくても同然だった。最高委員発言録を大統領府に伝える前に、大統領の党代表指名が公開されたからだ。
先週末、筆者と会った金槿泰最高委員はこう語った。
「党最高委員会議をここまで無力化させることはあり得ないことだ。私は金大統領がそうしたとは信じたくない。問題は大統領が『私の進む道が正しいと思わないのか。私を助けてくれれば、政権継続も自ずから成るはずなのに、なぜ助けてくれないのか』という考えに近い人だけ、「イエスマン」だけを探そうとしているようだ。私も大きな方向は正しいと考える。しかし、推進過程がこのようでは、国民はもとより党の共感さえ得難い」
とにかく、もはや民主党と大統領府は事実上東橋洞系旧派が掌握した。彼らがこれまで人事刷新要求の対象だったという点から見れば、逆に「マイウェイ(My Way)親政体制」が固まったわけだ。来年の大選構図の下絵が整ったとも言われ、東橋洞系旧派に近い一人の人物は「表情管理」に気を使っているという声も聞かれる。しかし「不可解な人事」で民心が背を向けたところに、党権を東橋洞系旧派が握ろうが、与党内の大選構図がどう組まれようが、何の意味があろうか。
「遅くとも来年の初めまでには、人事の刷新があるだろう。もう少し待ってみよう」「何を待てというのか。もう口に出すこともこりごりだ」
近頃、民主党内で公然に飛び交う話だというが、新任の韓代表の耳に入っているのだろうか。
チョン・ジンウ論説委員
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