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[オピニオン]共存の知恵が求められる時

[オピニオン]共存の知恵が求められる時

Posted September. 19, 2001 09:42,   

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「人は食べなければ死ぬ」。ハンスト中のある野党議員を引き止めながら、金永三(キム・ヨンサム)前大統領の口から飛び出た言葉だ。禅問答のような話だが、吟味するほどその意味は改めて考えさせられるものがある。飢えることのみならず、眠れなくても人は死んでしまう。この明らかな真理の前に、人間は皆ひとつになる。動物的な状況は例外を許さない。

しかし、人間は考える動物でもあるのだ。それぞれ各自の主観と抱負を抱いて生きている。その過程で、争いは避けられないものとなる。絶えず葛藤が生まれざるを得ない。混迷した世の中になるのも必至だ。だからといってこれを否定すれば、人間は居場所を失うことになる。同じようで異なり、異質なところの中に共通した要素が煌いているのが、人間の本質的な様相なのだ。

考えてみるがよい。全羅道(チョルラド)の人間と慶尚道(キョンサンド)の人間がみな同じ言葉を話し、江原道(カンウォンド)の人間と済州道(チェジュド)の人間が同じ物を食べるとすれば、我々の暮らしがどんなに無味乾燥なものになるかを。5000万の国民全てが、進歩か保守のいずれか一方のイデオロギーだけで団結しているとすれば、そうして雉を捕らえるのは鷹だと、赤化統一であれ北進統一であれ統一さえ成遂げれば、あとはどうでもいいといった考え方が蔓延しているとすれば、この社会は一体どうなるのだろうか。もはや「単一民族、そして悠久な歴史」で我々の自画像を描くことを止める時が来た。昼食を注文する席で「同じ物で」という言葉が何気なく飛び交い、それを通じて深い絆を感じることも止める時になった。

雑種繁殖が、生物学的により望ましい結果を生むという常識は、我々の暮らしや文化そのものにもそっくり適用できるのである。多様性はいいことだ。人間の中での差異というものは自然なことであり、その異質性は相当なレベルにおいて我々の暮らしを豊かなものにする薬味のようなものだ。その一方で、我々は差異の限界について考える必要がある。人間が異なるとすれば、どこまで異なるのかについて熟慮する必要がある。人間は異なって当たり前だ。差異は美しいものである。ところが、その差異の美学は、一定の限界の上において本領を発揮することになる。

米国が生んだ世界的な哲学者、マイケル・バルザー(Michael Walzer)は、ユダヤ人である。彼曰く、寛容は差異を可能にする、そして差異は寛容を必要とする。なるほど、もっともな話だ。そして彼は次のように附言した。寛容は無差別的なものではない、と。言い換えれば、決して「何でもよければいい」というものではないというのだ。一定の規律が前提となって初めて寛容が寛容らしくなるという考え方なのである。そのような基盤の上で、差異を尊重しなければならないというのである。

命に対する尊重、人間らしく生きることに対する憧れ、民主的政治秩序に対する普遍的な献身、これを否定したりこれから目を背ける差異は、差異とはいえない。それは、盲目的な破壊に過ぎない。

多様性という衣に包まれたニヒリズムに過ぎない。我々は、これを警戒しなければならない。

米国のニューヨークにある摩天楼が一夜にして崩れ落ちた。この災難は、人類全体に深刻なメッセージを送っている。世界貿易センタービルに突っ込んだ飛行機テロ、それは厳存する差異と対立と憎悪の表れそのものだった。それはまた、互いに異なった考え方と宗教と生き方が、平和な内に共存しなければならない当為性について覚醒させられた悲劇的な事件であった。

そして、ともに生きていくための最小限度の規範と秩序を見出さばければならない、切羽詰った状況に対する警告でもあった。

我々も例外ではない。差異の美学と共存の知恵、その危険な芸を急がなければならないのである。とうてい避けて通れない宿命、その文明の現住所を直視しなければならないのだ。主流のみ存在し、その主流から外れた考え方や趣向、そしてイデオロギーはなかなか根を挿すことができない単一民族、その完璧な要塞の隙を狙って割込んでくる危機の一端から目を背けてはならない。

非主流が立てる場所を与えなければならない。一心、一意の虚構を捨て切らなければならない。その一方で、主流と非主流がともに共存できる政治的、哲学的規範と制度的な枠組みを設けなければならない。

この絶体絶命の課題を前にして、我々は今手を拱いているだけだ。一見、東と西に同時に向かわなければならないような矛盾の前でぐらついている。摩天楼だけが崩れ落ちたのではない。我々の社会にも警報のアラームが鳴り響いている。だからこそ、もどかしさを感じるのである。

ソ・ビョンフン宗実大学教授(政治学)