朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)が突然、16日に予定されていた第4回離散家族相互訪問とテ拳道(テコンド)指導者の訪韓を延期すると表明した。その理由にあげた「韓国において造成された状況」というのが腑におちない。「韓国では、外で起こっていることに首を突っ込んで、全軍と警察に非常警戒態勢が敷かれ、予測不能な殺伐とした雰囲気だから」と言うことだ。
北朝鮮側の言う「外で起こっていること」とは、米国のアフガニスタン空爆を意味するようだ。それならお門違いな主張としか言いようがない。我々の常識で考えると、戦争で国際社会に不安心理が広がっているこの時に、むしろ南北交流に積極的に乗り出せば、北朝鮮側が望む対米関係改善の足場も固め、信頼づくりにも役立つのではなかろうか。
ともあれ北朝鮮側の一方的な訪問団の延期で、数日後には家族に会えると期待に胸をふくらませて夜も眠れなかった離散家族らをがっかりさせる結果となった。数日前、80代の失郷民(北朝鮮出身の離散家族)についで昨日も光復軍出身の80代の老人が自殺した事件は、国民の心を重くさせたが、北朝鮮側の今回の延期表明は、民族の念願を裏切る行為としか言いようがない。今回、訪北が延期となった人たち以外にも、先行きの不透明な再開を待つあまり惨澹たる心情にある離散家族のことを北朝鮮は認識すべきだ。
北朝鮮側の今回の措置は「受け取るものは全て受け取って、お返しはいったん後回しに」といった心づもりとしか解釈できない。北朝鮮側が今回の発表で10月半ばに予定された閣僚級会談と経済協力推進委員会、金剛山(クムガンサン)当局会談は、予定通りに進めると明らかにしたことから、このような意図が読み取れる。食糧と電力、そして先頃、北朝鮮側が新たな議題として取り上げた金剛山観光の見返り金2400万ドルなどを引き出すための会談は続ける一方で、離散家族問題は今後も繰り返し使うカードとして残しておくということだ。
しかし、北朝鮮側は今回、駒を置き間違えたことを自覚すべきだ。今回のことで韓国側の世論は北朝鮮側への失望と憤り、不信だけを増幅させることが明らかだからだ。すぐにも、論議中の北朝鮮への食糧支援に対して、世論は一層悪化するだろう。
このように常識の通じない北朝鮮側に対して、いまだに韓国政府が一方的にすがりつくような姿を見せるのは、歯がゆい限りだ。もちろん南北の和解協力もよいことであり、寛大であることもよい。しかし、政府はいつまで「つぎ込んでは裏切られる」といった南北関係を続けなければならないのだろうか。政府は直ちに、食糧支援問題からでも、離散家族問題などで確実な見返りが保証される方向へと進めていかなければならない。