アフガニスタンへの空爆を見守る世界の人々の視線に妙な気流が流れる。日増しに広がっている反米感情がさらなるテロや予期せぬ事態を呼び起こし、事を台無しにさせかねないからだ。世界貿易センターが崩れ落ちた際、世界は驚愕した。その後、1ヵ月間世界は息を呑んで事態の推移を見守った。やがて米国の報復テロが始まると、世界は安堵感よりは深刻な懸念を示した。
反テロ戦に敢えて反対した国はなかったものの、先端兵器の噴き出す火力がイスラム諸国の自尊心を踏み躙って聖戦の口火になるかも知れないという狼狽感のためだろう。最初の文明間戦争とされる湾岸戦争も、これほど複雑な構図ではなかった。湾岸戦争を通じて米国はペルシア湾とクウェートの莫大な石油資源を安全に確保し、イラクのフセイン大統領はイスラムの英雄として浮上した。湾岸戦争は少なくとも双方がそれぞれ異なる戦利品を獲得した戦争だった。
しかし、今度の戦争で得られるのはほとんどない。米国の要求は遺体であれ生きたままであれ、オサマ・ビンラディン氏の身柄引渡しと彼の率いるテロ組織の除去だ。欲を出せば、この際、国際社会においてテロの芽を抉り取ろうとしている。イスラム諸国でも辺境の指導者に過ぎないタリバーンのオマール師は、国が廃墟と化しても反米戦争を強行するようなイスラム原理主義者である。アフガンのこのような世界観は既に旧ソ連との戦争で勝利したときから確立されたものだ。世界の2大強国のうち1国を退けて、いまはもう一つの強国と戦う態勢を整ってきたわけだ。その背景には、覇権国家の米国がイスラムを侮蔑してきたとする揺るぎない敵対感が燻っている。
それを意識しているせいなのか、米国はミサイルと食糧を同時に投下する複合的な戦略を駆使しつつ、戦争の目的を反テロ戦に絞り込んで国際的な報復同盟が崩れないよう神経を尖らせている。タリバーンとビンラディン氏は戦争を覇権国家に対するイスラム文明の正義なる挑戦に拡大して全イスラムの連帯は勿論、第3世界の呼応を狙う。
テロに対する人道主義的な憤怒が消え切れない現在は、反テロ戦の大義名分が説得力を得ている。が、戦争が長期化し、グローバリゼーションの暗い様相をテロと結びつけようする雰囲気が広がれば、戦争を眺める世界の人々の視線がそっとイスラム側に傾くかも知れない。そうなると、サミュエル・ハンティントン氏が憂慮した通り、反テロ戦は「文明衝突」の様相を呈する可能性が高く、実際イスラム諸国の内部では文明衝突への飛び火を催促するような要因が山積みされているのが問題だ。
最も注意深く見なければならないのは、国家の境を越える人種的な絆だが、米国に代表される西欧が市場と資源の確保、時には自国の利益のためイスラム諸国の分裂を図る過程でおのずとイスラム諸国の繋がりは強化された。人種的な絆が人種間戦争を生んだりもしたことから、イスラム諸国は隣国と共存しにくいと評価されてきた。米国の空爆でタリバーンが崩壊するのは時間の問題だが、スンニ派イスラムの抗戦意識が広がり、過激派原理主義者の武力デモが相次げば、イスラム諸国の安定は大きく脅かされるに違いない。従って、親米ラインを構築している多数のアラブ系イスラム諸国も「西欧対非西欧」の対立構図に動揺されるかも知れない。
米国が最も憂慮しているのは、イスラム圏のこのような雰囲気が広範に広がっている反グローバリゼーションの情緒とつながる可能性だ。ちょうど英国、ドイツ、イタリアをはじめとした欧州諸国で反戦デモが繰り広げられており、反グローバリゼーションの連帯が加わる兆候を示している。米国のブッシュ政権が今度の戦争を契機に独占的な態度を大分緩めたとはいえ、反テロ戦がグローバリゼーションを妨げている妨害物を取り除き、米国の資本に「永久的な自由」を捧げる戦争に受け止められてしまう危険もある。
報復攻撃に対する国際社会のコンセンサスの中には、米国の覇権主義への全人類的な警戒感も同時に潜んでいる。ともかく米国は困惑極まりなく、考慮すべきことがあまりにも多い複雑な戦争を行っている。
にも関わらず最も警戒しなければならないのは、世界の列強がイスラム圏に作っておいた「血の境界線」の拡散を防ぐことだ。それはイスラム地域でさらなる流血戦争を誘発したり、反米テロの日常化を招くだろう。反テロ戦争をきっかけに「文明共存」の可能性がやがて実験台にのぼったような気がしてやまない。
ソン・ホグン・ソウル大学教授(社会学)