慶福宮(キョンボックン)の塀沿いの銀杏の並木が、もう落葉を終えた。今や「枯れ葉」の季節も冬に譲歩する支度をしている。ところで、例年は銀杏の葉の黄金のまばゆさにため息が出たものだが、今年の落ち葉は妙なことに色つやも芳しくなく、色あせたような感じがした。こう感じるのは、私1人ではなかった。
ソウルで最も空気汚染が深刻な所が光化門(クァンファムン)であるという事実は、よく知られている。その光化門が、最も多くのバス路線が集結している所の1中心地だからだ。人口1000万人を超える大都市ソウルの中心地であるため、これくらい現実として誰もが甘んじて受け入れるだろう。慶福宮は、このような光化門交差点から非常に近いのだ。朝鮮王朝が宮殿の場をここにしたのは、左には青竜に当たる駱(ナク)山、右には白虎に当たる仁王(インワン)山が、そして近くに北漢山と漢江がある風水的によい位置にあるだめだ。そのような場所に位置する慶福宮とその周辺が、今や公害を病んでいるのだ。
さらに、昨年の初頭からだろうか、慶福宮の中外に観光客を乗せて来た大型観光バスと乗用車が所狭しと駐車するようになった。特に週末ともなれば、塀側の1斜線は、駐車専用斜線に早変わりして故宮の塀を覆ってしまう。また、これらの車はエンジンを空ぶかししたまま停まっているため、空気汚染をさらに深刻にする。慶福宮の塀沿いの銀杏がああまで変わったのには、このような理由があるのだ。いや、銀杏だけではない。地域の住民が頭を悩ませている問題は、枚挙にいとまが無い。
こうなった背景には、大統領府青瓦台(チョンワデ)前の開放と慶福宮内の民俗博物館の大成功がある。喜ばしい歓迎すべきことに違いないが、予期してなかったことが起きたのだ。この国の観光地の成功が自然環境破壊をもたらしたように、慶福宮とその周りも公害に病み、週末には騒がしい場所に姿を変えてしまったのだ。慶福宮の塀沿いの道を大衆のための通り、「風物の通り」にしなければならないという提案まで出ている。実は、昨年秋には、ある都市計画専門家によって、この通りが殆ど仁寺(インサ)洞並に煩雑な通りに作り変えられるところだった。
600年の歴史を持つ古都ソウルには、東大門、南大門のような騒々しい市場もあれば、活気に満ちたファッションの通りやナイトライフの明(ミョン)洞、骨董愛好家達の仁寺洞、現代的な画廊街、大衆のための劇場街、また平和な日常の住宅街やマンション街もあり、歴史を感じ思索を楽しむ故宮とその塀沿いの道もあれば、知性的な雰囲気の落ちついた大学街もあるのが普通であり、人間的ではないだろうか。それなのに、今日のソウルはなぜここまでごちゃごちゃで品位の無い都市に転落しているのだろうか。
最近、慶福宮の駐車の混乱を多少なりとも解決できる道が見えてきた。民俗博物館が移転を計画中だという。民俗博物館は、国立博物館から独立して10年もたたない内に、全国最大の観覧客を誇る博物館へと急成長した。現在のキャパシティーで対応できる範囲を超えて久しい。このような博物館自体の事情と慶福宮の復元事業が相まって、民俗博物如何の移転事業に拍車がかかる見通しだ。
しかし、問題は残っている。週末にレジャーを楽しむ時代に入り、今後家族連れや団体の文化観光がさらに活発になる見通しの上に、慶福宮やその敷地内の国立中央博物館だけでも、現在の駐車空間では足りなくなるだろう。しかも古宮に大型バスが大挙駐車する姿は、故宮の美観と環境をひどく損なう。
解決策のひとつとして、慶福宮と博物館が団体観覧予約制を導入し、一週間の観覧客を調節して分散する対策を立てるのが望ましい。また、ソウル市と鐘路(チョンノ)区は、世宗(セジョン)文化会館と政府中央庁舎の間の地下駐車場を大型バスの駐車が可能な空間に改造し、慶福宮内(地下鉄駅出口方面)につながる地下通路を作り、観覧客の便宜を最大化する方法もあるだろう。もちろん、費用はかかるだろうが、それは現代建築技術でもって不可能なことではないだろう。
そうしてでも、自動車が慶福宮内外を占領することがないようにするべきだと考える。ソウルに静かな所を1、2カ所でも残して置くべきではないか。そして、慶福宮とその周辺が元来の静かな雰囲気と歴史の品位を取り戻し、故宮の塀沿いの銀杏の木が健康を回復し、ふたたびその輝かしい金色の落葉の秋の祭宴を見せてくれたらと思う。
キム・ホンナム(梨花(イファ)女子大学教授、美術史)<黒澤朋子>