20代の若者が、総合金融会社や証券会社などから2500億ウォンを超える巨額の不正融資を受け、それをあちこちで転がして、短期間で大金持の事業家に変身した事件が、いわゆる「陳承鉉(チン・スンヒョン)ゲート」だ。当時の金融監督院副院長補が、陳氏からわい賂を受け取っていたことが明るみとなり、逮捕された。当然、政界へのロビー疑惑が提起されたものの、検察は捜査を行なう意思を示さなかった。そうして事件はうやむやになった。
それから1年が経ち、国家情報院(国情院)経済課長が、陳氏から巨額の現金を受け取っていたことが明るみになり、逮捕された。前国家情報院第2次長が、陳氏を含め、昨今のゲート事件の裏で助けていたという疑いが強い。こうして検察が当初捜査に意欲を示さなかった「特別な理由」があった、というのが巷のうわさだ。巷の疑惑はこれに止まらない。国情院幹部らが列を成して関わった事件に、政界の実力者であるからといって、それに外れるはずがないということだ。民主党の一人の女性議員は、すでに収賄の容疑を受けている。
こんな渦中に、辛光玉(シン・クァンオク)法務部次官が、大統領民政首席秘書官として在職中の昨年8月末、陳氏から現金1億ウォンを受け取っていたという新たな疑惑が明るみとなった。事実の如何はともかく、疑惑そのものだけでも驚愕に耐えない。国情院幹部と政権党所属の国会議員に次ぎ、大統領首席秘書官まで関わっていたなら「コネの腐敗の鎖」がどこまで繋がっているのか、想像しただけでも気が遠くなりそうだ。もし事実ならば、現政権が直面する道徳性の危機は、国を揺さぶっているどころの問題ではない。
辛次官は、「1億ウォン収賄説」を強く否認している。「陳氏に一度も会ったことさえない」というのだ。法務部や検察も「事実無根」だとし、これを報じたマスコミに対し、法的対応を行うとする。国民は、辛次官の否認が事実であって欲しい。法務部や検察の発言も信じたい。しかし、民心もそうだとは考え難い。辛次官が1億ウォンを受け取ったという昨年8月に、国情院経済課長も巨額の金を受け取っていた。前国情院第2次長まで、疑惑を受けている。賄賂受諾の時点や国家情報機関の幹部まで関与した人的背景などに鑑み、大統領首席秘書官への疑念も簡単に消え去ることは難しいだろう。
当事者の否認や、法務部や検察の事実無根の主張だけでは駄目だ。事実無根を掲げるよりも、徹底的な捜査を行なって真相を解明し、国民が信じられるようにしなければならない。その道しかないのだ。