学位を取得して帰国してから3年間、私は時間講師をした。研究所にでも就職しようと駆け回っていた私に、友人が真剣に忠告した。長官や大統領府で、コネになりそうな人を探してみたら、と。
1990年代初めの頃は、政治学分野の国策研究所に、誰々はコネで入った、ということは公然の秘密であった。しかし、世の中にタダはない。人生初の出発を、結局いつかは返さなければならない借金で始めてはいけないと思った。運よく公開採用で大学教授になった私は、新聞に政治の論評を書きながら、誰かに気兼ねする必要はない。時々、よくぞ言ってくれた。どうしてそう思い切り書けるのか、という読者からのお褒めの言葉をもらうと、私は心の中でこう答える。「借金がないからです」。
与党民主党の大統領選候補者らのテレビ討論を見ながら、当時のことが思い出されたのは、一国の大統領は、少なくとも大統領になるためには、借金をつくってはいけないと思うからである。なかには、若いからか、相対的に借金が少ない候補もいた。しかし数名は、大統領になれば、いかに国政を運営していくかという意気込みよりも、どうやって権力を手にするかに、より関心があるという感じを受けた。大統領府の要人が各種不正疑惑に関連したなかで、民主党が、国民から信頼を取り戻し、さらに国民参加の大統領候補選びの趣旨を生かすためには、何よりも公正な候補選びが、保証されなければならない。これは、他の政党に影響を与えることはもとより、韓国政党の発展史においても、非常に重要な意味をもつためだ。このためには、党内の派閥が、候補選びの結果をわい曲してはいけない。
数日前に帰国した権魯甲(クォン・ノガプ)民主党前最高委員は、ある日刊紙とのインタビューで、ある候補者を後押しするという意思を明らかにした。権前委員が、李仁済(イ・インジェ)常任顧問を後押しするという事実は、公然の秘密である。政治家が政治行為をすることに、口出しはできない。しかし、誰が誰を支援する、ということが明らかな場合、その候補は、特定の派閥に借金をすることになる。当選後に、公約として掲げた政策を実行することで返せる借金なら問題はないが、そうでない場合には、利権や人事の特別待遇へとつながりかねない。ただでさえ、現政権の失敗が人事の失敗によるものであり、人事には派閥が介入したと、党内議員は主張している。理念や政策における連帯を除いたいかなる連帯も、国民のためにならない理由が、まさにここにある。
さらに、李仁済顧問が民主党候補として選ばれるためには、必ず先行されなければならないことがいくつかある。第一に、李顧問は、自分の過ちを心から詫び、国民の許しを請うべきである。彼は前の大統領選挙で、ハンナラ党の候補選びの結果に従わなかった経歴がある。世論政治は民主政治だと言って、世論調査で、当時李会昌(イ・フェチャン)候補の低い支持率を不服の理由にあげたのだが、これはき弁に過ぎない。それならば、世論調査で候補を選出すればいいのであり、大統領候補選びという手続きに従うと誓った誓約は、何だったのか。第二に、李顧問は、東橋洞系(金大統領の家臣グループ)の支援なしに、一人で出馬すると宣言すべきである。民主党の政党刷新の結果、大統領候補選びが行われるようになったのであるが、彼はこの過程で、何の役割も果たさなかった。他の候補が、東橋洞系ににらまれながらも、党刷新を唱えている時に、彼は全国の支持者に会いに渡り歩いていたのだ。彼が、政党民主化の流れを引き継ぐという確信を国民に植えつけるためには、東橋洞系との絶縁を宣言しなければならない。第三に、若い韓国を標ぼうする候補として、地域主義に頼らないと誓うべきである。李顧問が、3金(金泳三、金大中、金鍾泌)に会い、民国党と自民連との3党連立に賛成することは、地域主義に頼ることに相違ない。この3つが先行されることなく、李顧問が候補になれば、巷で口にされている「李仁済、必敗論」は、現実のものとなるかもしれない。
今回の大統領選挙で、ハンナラ党とは異なる代案を望む国民に、安心して選択できる代案を提示することは、国民に対する民主党の義務である。前述の3つの課題が先行されないまま、権前委員が、前の大統領選挙でハンナラ党大統領候補であった李仁済顧問を後押しするならば、これは民主党員と国民の願いに背を向ける行為といえる。
金大中(キム・デジュン)政府の改革政策の一部がとん挫した原因の一つは、金鍾泌(キム・ジョンピル)自民連総裁に負った借金のためである。地域主義の恩恵を受けた歴代大統領の人事政策は、偏るしかなかった。今回の大統領選挙では、どの党であれ、多からず少なからず借金のない候補が、大統領候補に選ばれることを期待する。
鉠己淑(チョ・ギスク)梨花女子大学国際大学院教授(政治学)