「憲法という星座に『不動の星』があるとすれば、それはいかなる国家機関であれ、政治、民族、そのほか、あらゆる意見に関する事柄について、何が正当だと決めることはできないし、また、強制的に市民にそれらに関しての信念を言葉や行動で表現させることはできない」
1943年米連邦最高裁判所のある判決で、ジャクソン裁判官が書いたこの言葉は、「個人の尊重」と「思想の自由」に関する原理をよく表わしている。「エホバの証人」派の信徒であるバーネットは教理に反する偶像崇拝だとして学校で星条旗への敬礼を拒み、退学となった。最高裁判所はこの退学処分が違憲だと判決した。3年前に、ほぼ同じ内容の事件で合憲だという先例を覆したのだ。
違憲判決がくだされた6月14日は国旗制定記念日だった。ジャクソン裁判官は同問題が、「宗教の自由」という問題とは別に、「思想・表現の自由」の問題だとして、憲法の権利章典は時代によって変る政治的な論争や多数決の原理をも超える原理だという洞察を示した。
韓国にも同じような事件があった。だが、韓国の最高裁判所は国旗敬礼の拒否による退学処分を合憲だとした。「宗教の自由」もやはり、かれらが在学する学校の学則と校内の秩序を害さない範囲内で保障されるべきだという見解を見せたのだ。
こうした論旨は韓国の裁判所で一貫して見られる。この事件のように同じ教派に属する信徒の徴兵拒否が問題になった1969年の判決で、裁判所はこのように述べている。
「・・・キリスト教徒の『良心上の決定』で徴兵を拒否する行為は、当然兵役法の規定による処罰を受けなければならず、・・・論旨でいういわゆる『良心上の決定』は、憲法で保障する『良心の自由』に属するものではないといえる」。
今年1月末、韓国裁判所の風土からして、ごく異例な決定がくだされた。兵役法の入営拒否者を処罰する上で、「良心的、宗教的な理由による兵役拒否者」に対して、いかなる例外措置も置かないのは違憲の可能性があるとして、憲法裁判所に違憲かどうかに関する審判を求めたのだ。
ソウル地方裁判所南部支部の決定文には次のような内容が含まれている。
「いわゆる良心的、宗教的な理由による徴兵拒否者の場合、憲法上の基本的な義務となっている『兵役の義務』と自由民主的な基本秩序の核心的な基本権である『思想、良心の自由』と『宗教の自由』間で衝突を起こし、両者の本質的な内容を損なわない範囲内で、両者を適切に調和並存させる必要がある。・・・現役徴兵拒否者の処罰規定が良心的、宗教的な理由による兵役拒否者に何の制限もなしにそのまま適用されれば、『兵役の義務』だけを完全履行させる代り、『思想、良心の自由』と『宗教の自由』は深刻に侵害される結果となる」
良心的、宗教的な理由による徴兵拒否問題は、わたしたちだけの問題ではない。米国は兵役免除法制度でもっとも長い伝統を持っている。
米連邦裁判所の基本的な立場は、良心を理由とした兵役免除は憲法上の権利として認められるのではなく、単に法律上の恩恵として与えられると解釈している。現在、先進諸国をはじめ、大半の国では良心的徴兵拒否を認めており、最近台湾でもこうした立法を導入したと伝えられている。
国連人権委員会も良心的な徴兵拒否の法制化を勧めている。兵役免除を認めたとしても、銃を取る代りに一般的に他の服役を与えており、ドイツの基本法では銃を取る兵役の代りに他の服役を明示している。ソウル地方裁判所南部支部の決定も、服役の適切性を意味しているものとみられる。
依然、冷戦状態を脱せずにいる韓半島の状況を思えば、兵役問題は敏感な問題としかいいようがない。にもかかわらず、この問題を新たに見直す必要があるのではないだろうか。
現在、韓国で宗教的な理由で入営を拒否している者には通常、懲役3年の実刑がくだされ、毎年その該当者が600人に及んでいるという。
徴兵拒否者の問題は韓国社会の「異端な」、極く少数の人だけの問題に見えるかもしれない 。しかし、良心的、宗教的な徴兵拒否問題は特定教派の信徒だけの問題ではない。問題は「少数者」に対する韓国社会の対応を象徴しているということだ。
米国式の個人主義が決して理想だというわけではない。だが、「違い」を認めることができない韓国社会の集団主義も問題だ。もっと寛容な姿勢を見習う時ではなかろうか。
梁建(ヤン・コン)漢陽(ハンヤン)大学法科大学学長(憲法学)