米国防総省の「核戦略の見直し(NPR)」報告書は、9月11日の米同時多発テロ以後の国際情勢を一方的に、米国の思うままの方向に持ち込もうとするブッシュ政権の思惑をさらけ出したもので、極めて憂慮される。米国が核を実戦兵器として使う方向に戦略を変えており、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)など7カ国を潜在的な核攻撃の対象国にしている、というのが報告書の核心だ。米国が相互確証破壊(MAD)という概念を通じて、核兵器を戦争抑止力として活用していた戦略を捨て、戦争の手段として使う準備を進めていることが明らかになり、核をめぐる国際社会の枠組みは、根本的な変化が避けられなくなった。
まず、核拡散防止条約(NPT)を振りかざして核の拡散を食い止めようとした米国の主張は説得力に欠ける形となった。自らは大量破壊兵器の破壊を目標にした新型核兵器の開発まで進めていながら、他国に対しては核の不拡散を求めるという相反する論理では、ほかの核保有国や開発能力保有国を説得するのは困難だ。米国がミサイル防衛(MD)体制を構築する大義名分も大きく弱まるはずだ。攻撃と防衛を含めて大量破壊兵器に対する完璧な対応能力を備えた米国は、敵国にとっては深刻な脅威となるだろうし、それは結果的に軍備競争につながりかねない。
国際社会に投げかける波紋も心配だが、とりわけ韓半島に及ぼす悪影響が懸念される。「悪の枢軸」などブッシュ大統領の強硬発言に激昂している北朝鮮が、核攻撃の対象に目されたことを真剣な挑戦として受け止める可能性が大きいからだ。
94年のジュネーブ米朝枠組み合意や北朝鮮のミサイル発射実験の猶予などで、辛うじて危機を避けてきた韓半島が、米国の政策変更で再び緊張が高まってはならない。米国は、核兵器で韓半島の紛争を解決しようとする考え方を捨てなければならない。米国は、南北による韓半島非核化共同宣言のためにも主導的な役割を果たしていたではないか。政府も、韓半島で核戦争が起こるような不幸な事態は、断じて防がなければならないという決心で米国の説得に取り組むべきだ。