「人でいっぱいなのに、なんでそんなに行きたいのかい?」
子供の時(70年代始め)、夏休みになれば必ず訪ねていた釜山(プサン)の祖母の家で海雲台(ヘウンデ)海水浴場に行きたいとねだると、決まって祖母が言っていた言葉だ。祖母はすでに亡くなって久しく、雲海台の波の音さえもう十数年来聞くことがなかったため、その言葉を思い出すこともなかったが、先週末、釜山を訪れて雲海台を通り過ぎた折、すっかり忘れていたその言葉が一瞬、頭の中に浮かんだ。
そう言いながら、祖母は私を連れて行ってくれる従兄弟たちに車代を渡し、このように「指示」した。「松亭(ソンジョン)に行くんだよ。」
松亭。雲海台から海岸に突き出た高い峠をひとつ越えなければ行けなかった静かな海辺。当時、松亭はホテルの立つ繁華街の海辺の街、雲海台とは違い、ひと隅には軍人のための休養所のテントが並んでいて、もう片隅には防波堤と青い松の森で飾られた静かで素朴な漁村の趣きがある海辺だった。穴子をさしみにして残った頭の部分をアイスケーキの棒にぶら下げて防波堤の岩の間に入れ、海ガニがはさみで拾うまで待っていたカニ捕りの思い出は、今も鮮明に覚えている。
ところが、この日訪れた松亭海岸の姿は、時間の流れと同じくらい変わっていた。さわやかな新築ホテルと高層ビルが立ち、海辺のそばには道路もできていた。変わらないのは、青い松の森と海と砂浜。しかし雲海台と比べると、あかぬけていないところと素朴さは依然として濃く残っていて、その点は開発された今も大きく違っていなかった。
市外バスが越えるのに苦労していた見晴らしのよい峠の道。これがあの有名な「タルマジ峠」となるとは。ソウルのアプクジョン洞のようにカフェやレストランが立ち並ぶ釜山の新しい名所となって久しい。峠の頂上には、高層マンションまで立ち、峠の下から見上げると、海岸の絶壁の上に都市のように君臨したタルマジ峠の街は、フランス南部地中海沿岸の小さな王国、モナコのモンテカルロにそっくりだ。
五六(オリュク)島など釜山の海がはっきりと見渡せるこの峠の頂上。楼閣がひとつもないはずはない。それはヘウォル台。スヨン湾から離れた五六島が見えた。駐車場には李光洙(イ・グァンス)の詩碑「雲海台にて」があった。「横になれば山月 座れば海月 じっと目を閉じれば 胸中にも名月がある 五六島を通る船も明月を乗せて おお、どこに行くことができようか この清風、この明月を置いてどこに行けようか 今寝なくてもいいではないか 一晩中。」
昔の道は「タルマジ道」と名づけてタルマジ峠を上ったり下ったりするドライブ客が利用し、先を急ぐ人のためには山の下の松亭トンネルを突き抜けて雲海台と機長(キジャン)村を短時間に結ぶ道路がある。地理に不案内な旅行客ならば、ともすれば松亭、クドク、ヨンファリ、テビョンなどに続く素敵な海辺の道路を通り過ぎてしまうこともあるので、注意。
その中でも、カタクチイワシの港として有名なテビョンは必ず訪れて欲しい。今がカタクチイワシが最もおいしい時期で、16日から19日までカタクチイワシ祭りが開かれる。
テビョン港の入り江ですでに40年間カタクチイワシの塩辛を扱っているヨム・ギュボムさん(66、機長郡水産共同組合)。ヨムさんの説明は簡単だった。カタクチイワシの旬が3月から5月とはいっても、カタクチイワシが卵をぎっしりつめる今ごろがカタクチイワシの肉も柔らかく、卵も多く、おいしいそうだ。そして今カタクチイワシの塩辛を作るとおいしいという決定的な理由は、カタクチイワシが小さなエビを食べるからだ。と言いながらヨムさんは、生のカタクチイワシのはらわたをとって中を見せてくれた。はらわたの中には、まだ消化されていない小さなエビがいっぱいつまっていた。このようなカタクチイワシでつくった塩辛の味は「カタクチイワシ+エビ」塩辛になるという説明だが、昨年つくった塩辛の味は、確かに後味が甘かった。
入り江の道端では、朝捕まえたばかりの生のカタクチイワシを即席で荒塩と混ぜてビニールに入れ、塩辛用に販売していた。この日の価格は3万5000ウォン(25kg入り)。2万5000ウォン位が適当な値段だが、カタクチイワシを捕まえるのが容易でないためだという。ヨムさんは、名刺(ヨム氏のカタクチイワシ塩辛、051-722-9321)をくれ、朝電話して安い時に来いといった。もちろん宅配も可能だと。
テビョン港に寄ったなら、入り江前の海を見ながら、焼酎にカタクチイワシの刺身1皿は絶対見逃せない。カタクチイワシの刺身は油分が多く、味がすぐ変わってしまうため、テビョンのように生カタクチイワシを集荷する所でない限り、簡単には本来の味を味わうのは難しい。生カタクチイワシは、骨を取って野菜と千切りした果物を入れ、酢コチュジャンに混ぜて生ワカメ、サンチュなどで包んで食べるのだが、1皿(2万ウォン)で2人が十分に楽しめる。カタクチイワシチゲもある。祭りの時は25%割引販売する。
▲行きかた△雲海台→機長(海岸ドライブ)〓雲海台(マクドナルド前・以下括弧内の距離はここからのものとする)〜タルマジ道〜ヘウォル台(1.3km)〜松亭入り口(5km・機長経由ウルサン行き直線道路分岐点)〜松亭中央路〜海岸三叉路(5.4km)〜海東竜宮寺(7.3km)〜ヨンファリ(10.9km)〜テビョン港(入り口11.3km)〜機長村(17.2km・ガソリンスタンドあり)。
△機長→ソウル〓機長村/14番国道〜温山(オンサン)〜蔚山(ウルサン)〜16番高速道路で(蔚山線)〜彦陽(オンヤン)/1番高速道路(京釜線)〜ソウル
△テビョン港カタクチイワシ祭り〓推進委員会051-720-5638
波が押し寄せる海岸に位置する海東竜宮寺で日の出を見た後テビョン港カタクチイワシ祭りに参加する無宿泊2日パック。18日午後晩ソウル出発。5万8000ウォン。アップル観光02-723-8893
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