韓国とスペインが手に汗握る120分間の試合を終え、PK戦に入った22日の光州(クァンジュ)ワールドカップ(W杯)競技場。GK李雲在(イ・ウンジェ)がスペイン4人目のキッカー・ホアキンのシュートを止め、そして韓国チームの5人目のキッカー洪明甫(ホン・ミョンボ)のボールがネット右上を突き刺して、赤いうねりが競技場を覆ったその感動の瞬間、観客席にいた金大中(キム・デジュン)大統領の姿がちらっとテレビの画面に映った。喜びを隠せない金大統領特有の、少しぎごちなく見えて天真らんまんな笑顔が一瞬クローズアップされた。目には涙が浮かんでいるようだった。
その前日の21日、金大統領は3男の弘傑(ホンゴル)氏につぎ次男の弘業(ホンオプ)氏が不正にかかわった疑いで逮捕され「すべて私の不徳の致すところであります。国民に深くおわび申し上げます」と頭を下げた。震えた声で謝る金大統領の姿を見て「どうしてこうなったのか」と切ない気持になった。
金大統領は息子を刑務所に送り、惨たんたる表情で国民の前に立ったが、わずか1日でW杯の勝利に歓呼し感激の涙を流すという、まったく異なる2つの姿で国民の前に現われた。誰よりも栄辱の人生を送った金大統領が、一日で経験したさらなる「喜悲」の反転であろうか。
韓国がスペインに勝利した時、金大統領の姿は、誰をも感動させる親近感を与えただろう。しかし、国民への謝罪をした時、金大統領は指導者の哀れな残影だけを記憶に留めさせた。金大統領や現政権に対する不信が、それだけ根深いためである。いずれせよ金大統領の謝罪は、意図的であれ偶然であれ、真実味があろうがなかろうが、絶妙のタイミングで行なわれた。W杯の熱気が金大統領の謝罪を「圧倒」して後方に退かせたためだ。
金大統領も他の歴代大統領に劣らぬ業績を残した。「通貨危機」を無難に乗りきった。大統領として初めて平壌(ピョンヤン)を訪れ、金正日(キム・ジョンイル)総書記と会談した。そのおかげで、夢にも見なかったノーベル平和賞まで受賞した。またW杯も成功裡に行ない、韓国チームがアジアで初の準決勝に進出する栄光を得た。金大統領は、このうちどれ一つをとっても、偉大な大統領と言うに値するだろう。すべて歴史的な大事だからだ。
しかし、今の金大統領の姿はどうか。世界のどの国を見回しても、在任中に自分の息子を2人も刑務所に送った大統領はいないだろう。W杯に来た外国人には、金大統領がそれほど不正と腐敗の廃絶に徹底しているという意味に誤解するかもしれない。まことに逆説的な話である。金大統領は息子2人が逮捕されるほど、腐敗した政権を率いてきたのだ。
この4年間、金大統領はあまりにも「偉大な大統領」になろうとした。「統一大統領」という遠大な目標を掲げてそれに没頭するあまり、日常のことに目が届かなくなった。権力の周辺にカビが生え、家に「不正の客」が出入りしても、取り締まることができなかった。その結果、金大統領には華々しい退任大統領の道さえも開かれていないようだ。準備のできた大統領と、華やかに登場した就任式の時の姿も、「帝王的権威」もみな色あせた。国政をスムーズに行なえず、峠を越した老大統領の影だけが見える。大統領も政権もみなが疲れている。
再びサッカーを考えよう。なぜこのように全国がサッカーに熱狂するのか。一言で言えば、韓国チームが国民の期待を忠実に満たしてくれたからだ。期待と成果が相互に相乗作用を行なって、ばく大なエネルギーを噴出しているのだ。
卒直に言って、金大統領や現政権に対する期待はそう多くはない。金大統領が歴史的な南北首脳会談、W杯の成功、ノーベル賞受賞の本来の「光」をみい出すことは容易ではないだろう。しかし、金大統領は国民の間に「期待の芽」が芽生えるよう不断の努力をしなければならない。その期待を生かし、それに応じる行動をしなければならない。
金大統領には、まだ任期終了のホイッスルが鳴っていない。イタリアに敗北寸前だった韓国チームは、後半戦終了直前にゴールを決め、勝利の基盤を固めた。スペイン戦では、最後の瞬間まで戦ったが、その時はまだ勝利は韓国のものではなかった。待ちかねた勝利の女神は、最後の瞬間のPK戦で韓国チームに微笑んだ。金大統領に残された8カ月間の任期は、決して長くはないが、まだ機会はある。
南賛淳(ナム・チャンスン)論説委員