朴正煕(パク・チョンヒ)政権時代、若者たちのアイドルとして、労働運動家の全泰壹(チョン・テイル)と歌手金敏基(キム・ミンギ)を挙げることができる。彼らが頭に浮かぶのは、民主化への熱望のためだ。80、90年代には、世界の舞台で最高と認められた韓国人が、英雄扱いされた。マラソンランナーの黄永祚(ファン・ヨンジョ)、野球選手の朴賛浩(パク・チャンホ)、ゴルフ選手の朴セリ、指揮者鄭明勲(チョン・ミョンフン)、ビデオアーティストの白南準(ペク・ナムジュン)だ。このような現象は、時代的潮流であるグローバリズムの流れとかみ合っているとみても間違いではないだろう。
サッカー・ワールドカップ(W杯)が終った後、新たなアイドルが登場した。サッカー選手の金南一(キム・ナムイル)だ。今大会で優れた活躍をみせた選手たちは、金南一のほかにもいる。従って、彼の爆発的な人気は、サッカーの実力以外の要素が作用した結果であると見るべきだろう。その要素とは果たして何か。まず挙げられるのは、反抗的な外見と言行だ。茶髪にすっと通った鼻筋、その外見からは自分の感情を隠さずに、所信に反することには妥協しないという断固とした印象を感じさせる。
彼の言行は、とても率直な感じを受ける。W杯開幕の前、記者がどのように準備しているかと聞いた時、彼は「知能的なファウルの技を磨くこと」と言ったという。W杯の4強進出が確定した後、今一番したいことは何かという問いに「ナイトクラブに行くこと」と語った。その一方、父親の涙ながらの訴えを受け入れて、家出生活を清算した情にもろい面も伝えられている。このような姿は、TVを通じて伝えられた間接的なイメージにすぎない。しかし、既成世代が作った形式や秩序を拒みながらも、温かく純粋な内面を持つ彼のキャラクターに、多くの若者が歓呼を送っているに違いない。
サッカー選手として彼が担った「つらい役割」も人気の一つの要因だ。必要なことであるが、大変で煩わしいために皆が嫌う役割が、W杯で彼に任せられたことだった。どの社会であれ、大衆が特定人物に熱狂するのには、それだけの理由がある。若者が金南一のようなキャラクターを好むのは、現実にそのようなスタイルの人物がいないということにもなる。ディフェンダーという「悪役」を快く引き受けるサッカー選手はそう多くないだろう。家出した金南一を涙で説得した父親がともに話題になることも、息子に対し責任感を持った父親がさしていないためではないか。逆説的な意味で、時代がアイドルを作り出すという昔の言葉が頭をよぎる。
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