多国籍製薬会社が薬価の引き下げ政策を止めるため、米政府まで動員し、我々側に全面的な圧力を行使していたという話は衝撃的だ。利益が敏感に対立する事柄を貫徹させるため、ロビーを働きかけるのはあり得る。しかし、ロビーのレベルを超えて、脅迫に近い圧力までかけたとする報道が事実なら、これは国家主権とも関係する深刻な問題だ。
しかし、これよりもさらに国民を怒らせているのは、これに振り回された我が政府のことだ。薬価の引き下げは健康保険財政の健全化に直結する問題で、駆け引きの対象ではない。にもかかわらず、「圧力」のために高い薬価を引き下げることができず、国民にその負担を振ったのならば、その政府は誰のための政府なのか。
「5月に健康保険財政赤字の節減対策を大統領に報告しようとしたが、大統領府秘書室が止めた」とする李泰馥(イ・テボク)前保健福祉部長官の側近の暴露は、重要な意味を持つ。その対策の核心が、薬価引き下げだったからだ。李前長官は、これ先立って3月にも大統領に薬価引き下げの必要性を説明しようとしたが、大統領秘書室が制止しならなかったという。
米国は、昨年5月から関連機関を総動員して我が政府に執拗に圧力をかけてきた。とくに今年5月には、薬価再評価制度の推進と関連して圧力が最高潮に達していた。このため、大統領府が、福祉部の薬価引き下げ政策に否定的だったという主張は説得力を持つ。大統領府側は、「簡単に大統領や国民に約束するなという趣旨だった」としているが、健康保険財政の赤字が「足元の火」だったことを考え合わせると、当然、報告がなされるべきだった。「大統領の日程が合わなくて報告がならなかった」とする解明も、また窮屈に聞こえるだけだ。
政府は、今にでも薬価引き下げ政策に対して、どのような圧力があったのか、また李前長官を就任6ヵ月目で電撃的に更迭した背景は何なのかを明らかにするべきだ。これと共に参照価格制、薬価再評価など、薬価を適正な水準に引き下げるための政策も、改めて進められなければならない。国民の健康を守る権利は、いかなる圧力にも譲ることのできない事柄だ。