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[オピニオン]明洞の国立劇場

Posted August. 08, 2002 22:16,   

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「4〜5歳の頃から女性国劇(ヨソングック、女性だけで構成され、韓国伝統音楽のパンソリ、踊り、演技が一つになった伝統ミュージカル)をずいぶん観ましたよ。金ジンジン、チョ・グムエン…彼女たちを見て、なんと格好いいんだろう、私もやってみたいと思いましたね」最も韓国的な母親像として親しまれる女優、金恵子(キム・ヘジャ)さんの話だ。

彼女が幼い頃、親戚の大人に連れられてはその背中で公演を観ていたのが、ソウル中区明洞(チュング・ミョンドン)にある旧国立劇場(現大韓総合金融所有)だった。幼い子どもに分かるはずがないと、子どもの「能力」を無視する大人がずいぶんいるが、幼い頃の文化経験は、その人の生涯に大きな影響を及ぼすものだ。あの頃に明洞国立劇場がなかったなら、私たちは彼女のような女優にめぐり合えなかったかも知れない。

◆幼年時代だけではない。敏感な思春期はもとより、働き盛りの成人期においても、感動的な文化は、乾いた日常生活の中のオアシスとして、私たちののどを潤してくれる。問題はその文化の揺籃が、私たちの生活の中心に位置付けられるべきだということ。あえて米国ニューヨークのマンハッタンの中心に設けられたリンカーンセンターを例に挙げないまでも、公演場はともかく繁華街に落着くべきだ。そうして初めて、通りすがりに立ち寄ることができるのだ。ところが、芸術の殿堂(ソウル瑞草区瑞草洞)と国立劇場(ソウル中区奨忠洞)は、気軽にふらっと出かけられるようなところではない。

◆その点、明洞の旧国立劇場は、ソウルの中心地に位置しているということだけでも、最適の立地条件を備えている。そのうえ、明洞は今10代から40代以上の世代が集まる新たな「多様性の街」として、再びスポットライトを浴びている。若者の流行ファッションから洗練されたレストランとマルチプレックス劇場。さらには、大規模なゲームセンターと先端電気製品売場まで立並び、ファッションとグルメ、そしてエンターテインメントの発信地として浮上した。5月には、明洞聖堂の文化館跡に、ミュージックホールのコストホールも開場した。そのうえ、1957年から18年間、公演芸術のメッカ役を果たした旧国立劇場が復活すれば、明洞は、感動をもたらす文化ルネッサンスの空間として位置づけられることだろう。

◆旧国立劇場が、75年に大韓投資金融に売却され、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)との体制競争を意識して奨忠洞(ジャンチュンドン)に新たに大規模に建てられた国立劇場へと移って行ったのは「文化の明洞」の象徴的な死であり、イデオロギー優先の時代的な悲劇だった。文化観光部が、この旧国立劇場を買い取り、再び公演の場として活かすとの方針を明らかにした。要は来年度の政府予算から劇場購入費の400億ウォンを確保すること。今度こそは、文化の香が経済論理によって押し流されることがあってはならない。それに伝統はカネに変えることもできない。飲んで食べて遊ぶために明洞を訪ねた人たちが、ここで人間味あふれる演劇を通して心まで満たされて帰っていくとすれば…想像するだけでも胸がわくわくするではないか。