朝鮮王朝の世宗(セジョン)の時のこと。明に遣わされた使臣が明の高官にこう言った。「わが国の王が、昼夜を問わぬオランケの国境侵犯に気をもむあまり、糖尿のうえに目の病まで患っています。いい薬があればいただけないか」もちろん王の健康を心配してのことだ。しかし、漢陽(ハンヤン)に戻った彼はお叱りを受けた。明かしてはならない「機密事項」を外国の官吏に知らせたというのだ。結局彼は島流しの刑に処され、見知らぬ地に追放された。よかれと思って言ったことが、失言の判決を下されたのだった。
◆古今東西の歴史を通じて、このような失言で「舌禍(ぜっか)」をまねいた人は数え切れないほど多い。韓国の場合、95年の徐錫宰(ソ・ソクチェ)総務庁長官の「4000億ウォン秘密資金」発言や98年の秦炯九(チン・ヒョング)最高検察庁公安部長の「造幣公社スト誘導」発言などが、失言リストに載った代表的な発言である。彼らは、話をする時までは、それほどばく大な破壊力を持つとは思ってもいなかった。今回の民主党の李海瓚(イ・ヘチャン)議員の「兵風捜査誘導」発言もしかりである。李議員も初めは、このように大書特筆されて政局ムードを反転させるとは思ってもみなかったようだ。
◆失言にも種類がさまざまである。言うべきでない言葉をうっかり言ってしまう場合はもちろん、うそや悪口、内容もよく知らずに言う言葉もすべて含まれる。最近になってこのような失言を表現する「オラルハザード(Oral Hazard)」という新語も生まれた。「モラルハザード(Moral Hazard・道徳的危険)を真似た表現である。この中でも最も影響力が大きいのは、やはり「隠された真実」が公開された場合である。韓国社会には、今でも依然として後ろめたいことほど秘密にして覆い隠そうとするのが慣行のように考えられている。そう考えると、真実を暴くのに役に立つ失言は、むしろ「実言」と呼んでもよさそうだ。
◆聖書にこんな文句がある。「言葉が多ければ失敗も免れがたいが、その口を制御できる者は、知恵がある」本質的に政治家は言葉を使う職業であり、従ってそれだけ失言する可能性も高い。今後、大統領選挙戦が本格化するにつれ、多くの発言が飛び出すだろう。この過程で口が滑って回復不可能な舌禍をまねく政治家や派閥が出てくるかもしれない。誰が「オラルハザード」にはまるかを見とどけることも、もう一つの大統領選挙鑑賞法になりそうだ。
宋煐彦(ソン・ヨンオン)論説委員