人身売買の歴史は根深い。古代国家の時代、もっとも代表的な人身売買の形は、戦争に敗れた国の兵士や若い男女が勝った国の奴隷になる場合だった。敗戦の代価を労働力に算術して払ったのだ。近代国家に入っては、アフリカなどの黒人が米国や欧州の奴隷になったケースが多かったが、強制的な売買の形がほとんどだった。黒人を誘拐して、これらの国でカネを受け取って売り渡す奴隷商人が少なくなかったのだ。
◆米国の黒人作家アレックスヘイリーの「ルーツ」は、こうしたアフリカ黒人の悲しい人身売買の歴史を描いている。最初は小説として書かれた後、テレビのドラマシリーズに制作されて旋風的な人気を博したこの作品は、アフリカガンビア出身の「キンタクンテ」という名の黒人が、白人の奴隷に売られてから7代にわたる涙ぐましい記録が盛り込まれている。奴隷として白人の虐待と搾取に耐え切って、とうとう奴隷解放を迎えた時までの波乱に満ちたストーリーが胸を打つ。
◆当時まで人身売買が行われるもっとも大きな目的は労働力の確保で、したがって男の奴隷の身代金がはるかに高かった。女の奴隷が白人の性的対象になる場合もしばしばあったが、それはあくまでも付随的なものだった。しかし、現代に入って人身売買は形を変え、若い女性にかたよって行われている。ほかならぬ売春を目的にしているためだ。各国の改善努力にもかかわらず、こうした人身売買はなかなか減る兆しを見せず、被害女性の低年齢化も著しくなっている。国際労働機関(ILO)の統計によると、全世界に散らばっている人身売買組織によって人身売買の犠牲になる人が、毎年数千人に達している。
◆韓国もこうした現状から外れない。わが国の若い女性ばかりでなく、ロシア、フィリピンなど外国出身の女性も、在韓米軍基地周辺を中心に性の奴隷として売られている。こうした状況の中、政府が韓国の人身売買の実態を縮小した報告書を米国務省に送ったとして、女性団体が立ち上がった。女性団体は「縮小したことがない」という政府の主張を信用できないとし、来月、米議会で、わが国の人身売買実態の深刻性を証言することにしたという。人身売買は人間が人間として生きていく権利と価値を奪い取るものだ。女性が一国の重要な資源として、適正な待遇を受けられずにいるのに、一流国家うんぬんは説得力に欠ける。後日、ある作家がわが国で人身売買されたおばあちゃんのルーツを探し、もう1人の「キンタクンテ」を描くようなことはあってはなるまい。
宋煐彦(ソン・ヨンオン)論説委員 youngeon@donga.com