「枯れ死の危機に追い込まれた韓国サッカーを生きかえせる指導者には金応龍(キム・ウンリョン)監督(61)が最適だ」。
ワールドカップ(W杯)の英雄、フース・ヒディンク前代表監督が登場する前の話だ。野球界としては呆れるような怪談だが、かなり真剣に人々の口に上っていた。
昨年初め、三星(サムスン)ライオンズが三顧の慮を尽くして彼を迎え入れたときも、同じような心境だった。「ゾウ」の異名を持つ金応龍監督。ヘッテでだけ18年間も長期政権を握って9度も韓国シリーズを勝利で飾った優勝製造機ではないか。実業野球のホームラン王をさらった選手時代から、彼にはいつも「最高」という修飾だけがつきまとっていた。
しかし三星の「優勝請負」は、初年度に見事にも失敗に終わった。昨年、三星は戦力で圧倒的な優位を見せていたにもかかわらず、何かに取り付かれたように斗山(トゥサン)にあっけなくも逆転負けを食らった。このことについて物好きな人たちは「万年準優勝チームの三星におりた『のろい』が金監督のカリスマをしのいだ」と口にしていた。
それを気に掛けたのか。金監督は、2年連続ペナントレース1位を確定した最も喜ばしい日にも、さほど明るい表情ではなかった。記者団のインタビューでは笑い顔を見せたが、いざ選手たちに向かっては「ご苦労」の一言も残さなかった。
そんなにまで言葉を抑える「ゾウ」監督の内心は何だろうか。
事実、金監督は、昨年、生涯初めての失敗の痛みを経験しながら、ひっそりと自身の指導スタイルについて多くの疑問を投げかけたという。「斗酒なお辞せず」と言っていた大酒飲みも突然止めて、甘い男に変身するために絶えず努力した。
しかし、そうした努力とは関係なく、金監督は今年に入って精神的苦労は一段と多かった。シーズン序盤の4月末、つかの間を1位に立ったが、7月初めには7連敗のドロ沼に陥って首位の起亜(キア)に7.5ゲームも差をつけられ3位に落ちたこともある。また、中盤以降は、三星とかかわる頻繁なビーンボール騒ぎと、チン・ガブヨンの薬物騒ぎが波紋を広げ、5年契約を結んだ金監督の能力と去就を問題視する報道もみられた。
だが、彼はやはり不屈の勝負師だった。林昌勇(イム・チャンヨン)と共にマウンドの双壁を築いていたエルビラが親指負傷で欠場となり、梁(ヤン)ジュンヒョクがベンチを行き来する状況下でも、シーズン終盤の15連勝という奇跡をつくり、それまでの数々の説を一気に吹き飛ばした。
今の金監督が望んでいるのは、大邱(テグ)のファンたちも、韓国シリーズ優勝の祝杯を上げることができるように力を添えてくれること。三星にかかったのろいを解き放してみせるという野心と、個人的に野球人生最高の栄光となる「V10達成」という大目標を、彼は決して口外に出さなかった。「少しでも力を添えたい」という素朴な一言が全部だ。
プロ野球21年の歴史のなかで最大のミステリーと言われる三星の「七転八倒」が、今年の秋に、60代の老監督の指先で解き放たれるのだろうか、いとも興味深い。
張桓壽 zangpabo@donga.com