「大統領とはさびしい人です。安心して信じられる人は妻だけだから」。ジョンソンが大統領職を退いた後、後任のニクソンに言ったことばだ。これに対しニクソンは「より優れた人と結婚したことを幸いと考えるべきでしょう」と返した。大統領夫人の権限に対する規定はどこにもないが、最高権力者の「唯一の」相談者というばく大な影響力に疑問をもつ者はいない。事実、大統領夫人のスタイルによって、権力の色もさま変わりする。選出されるのでも任命されるのでもない大統領夫人は、今やひとつの「公職」として認識されている。レーガン元大統領の夫人ナンシー女史は、職業欄に「ファーストレディ」と書いていた。
◆ジョンソンの話を裏返せば、大統領夫人もどれほどさびしい存在かという思いもする。トルーマン夫人のエリザベス女史は、ホワイトハウスの生活を「ろう屋で王冠をかぶるようなもの」と皮肉り、ナンシー女史はホワイトハウスを去る時「誰かが常に私を虫眼鏡でのぞいている感じがして、気の休まる時がなかった」と語った。40年あまりの間ホワイトハウスの記者であったトーマス記者は「ホワイトハウスの大統領夫人はみな、地位にふさわしい振る舞いをしなければならないことに恐怖と不安を経験する」と語った。そのためにミッテラン仏大統領の夫人ダニエル女史が、夫の在任期間14年の間、エリゼ宮への入居を拒否して別に暮らしたのかもしれない。
◆有力大統領候補の夫人である韓仁玉(ハン・インオク)、権良淑(クォン・ヤンスク)、金寧明(キム・ヨンミョン)氏らみな、歴代韓国大統領夫人の中でも故陸英修(ユク・ヨンス)女史に似たいという。静かな内助と和やかなイメージのためだろう。米国では、フランクリン・ルーズベルト夫人エリノア女史が、ホワイトハウスの「女主人」のモデルとされている。エリノア女史は、疎外された階層への関心と配慮が並々ではなかった。夫より人気が高かったファーストレディも少なくない。フォード元大統領の再選のための選挙遊説の時、共和党が掲げたスローガンは「ベティをホワイトハウスに留まらせよう」だった。ベティはフォード夫人のこと。またニクソンは「最悪の大統領」の一人に数えられるが、夫人のパット女史は、賞賛の対象であった。
◆先日ある女性メディアが大統領候補夫人も検証しなければならないと主張した。これまで大統領夫人をめぐる問題や大統領夫人の実質的影響力を考慮すれば、共感できる部分もある。また、女性の社会参加が活発となっただけに、大統領夫人の役割も再照明すべきであろう。米国のファーストレディは、国会で演説したりもし、ワシントンの歴史博物館にはファーストレディの展示室が別に用意されている。ニクソンの言葉どおり「夫より優れた大統領夫人」をわれわれも期待する。
林彩清(イム・チェチョン)論説委員 cclim@donga.com