ダンゼル・ワシントン主演の「ジョン・Q」という映画は、心臓病で死んでいく息子の命を助けるための父親の涙ぐましい話を描いている。父親のジョン・Qはある日、息子のマイクが野球試合の途中に倒れたという知らせを聞く。駆けつけた病院ではすぐにでも心臓移植手術をしなければ助かる見込みはないという。手術費用を集めるために東奔西走するが、前金さえも出せない貧しい父親は結局、銃を手に病院に立てこもる。要求事項は息子を手術待機者の名簿に早く載せること。だが、これを無視して警察の鎮圧作戦が行われ、人質事件が世間に知られるようになる。
◆この場合、人質を取った犯人は有罪か、無罪か。映画が封切りされてから有無罪をめぐる議論が米国中を熱くさせたが、もっとも共感を得た結論は、主人公のダンゼルがインタビューで述べたこの言葉だった。「ジョン・Qは有罪か。父親は無罪だ。わたしがそのような立場になったら選択の余地がなかっただろう」。人質と言えばまず恐怖を感じるが、世の中にはこのように同情心を覚える事件もある。韓国でもあるインターネット・サイトで、「どんな時、人質でも取りたくなるのか」という質問をアンケート調査したことがあった。その時、あるネチズンが「結婚に反対する恋人の両親を説得するために人質でも取ってみたくなるのでは」とう内容の応えをしたとか。
◆最近、世界のいたるところで繰り広げられる人質事件はこれとは非常に勝手が違う。要求事項が聞き入れられなかった場合、暴力、殺害など想像を絶するほどのむごい惨事が起きる場合が少なくない。人質事件は誘拐や拉致のように人の命を担保にしている点でいかなる犯罪よりもその罪質が悪い。こうした中、ここ数年、人質の釈放にノウハウを持っている交渉専門家まででき、株を上げている。かれらの主な活動舞台はエクアドル、コロンビア、ナイジェリア、イエーメン、チェチェンなど。お金で死んだも当然の命を助けられるというのだから、それでももっけの幸いだと思わなければならないだろうか。
◆ロシアのモスクワで起きた人質事件がテロ、狙撃事件などで、そうでなくても不安な世界をさらに物騒なところにしている。機関銃などで武装したチェチェン人がミュージカル劇場を占拠し、数百人の観客と俳優を人質にしてチェチェン戦争の即刻中止などを要求しているのだ。劇場に行って不本意に人質になった人々とかれらの無事を祈る家族たちはどんなに気をもんでいるだろうか。しかし、チェチェン人もまた、かれらなりにこうした行動を愛国心からだと信じこんでいるのだから、どうなることやら。もしかするとこうした人質事件はテロ、拉致などと一緒に人類が存在するかぎり、決してなくならない足かせなのかも知れない。
宋煐彦(ソン・ヨンオン)論説委員 youngeon@donga.com