ただでさえ苦痛とともに生きているうつ病患者とその家族の心を、無知や誤解で傷つけてはならない。
精神科専門医は「大邱(テグ)地下鉄放火事件の容疑者は、一般的なうつ病患者とは違う」と述べ、「今回の事件が、うつ病をはじめとする精神疾患者への関心を高め、より多くの患者が治療を受けられる契機となってほしい」と口を揃える。
▲容疑者とうつ病〓金デファン容疑者は脳梗塞を患ってから、様々な精神的問題に悩まされた。国内外の研究によると、脳梗塞患者の2割以上でうつ病が現われるという。また、脳梗塞患者の3割以上は性格が衝動的に変わる。特に、人格形成に問題のある人ほど、精神的問題が深刻化する可能性が高い。
金容疑者の場合、普段から抱いていた社会に対する反感から、他人や公共の利益を犠牲にしてもかまわないという「反社会的人格障害」に、憂うつ、憤り、衝動など精神的問題が絡んで爆発したというのが、多くの専門医の説明だ。そのうえ、他人や自分に対する評価や気分が極度に変わる「境界線人格障害」も作用したという。
しかし、大半のうつ病患者は、人のせいにしない。一人で苦しみ、自責、自害、自殺など自分を虐待する特徴がある。多くの人は、うつ病患者は衝動的に犯罪を起こすと思っているが、健常者の犯罪率より低い。健常者より、むしろ消極的で行動に気をつける。
▲うつ病の原因と症状〓うつ病は遺伝的な理由に後天的な要因が重なり、脳から信号を伝達するノルエピネフリン、セロトニンなどの物質が正常に分泌しないために生じる脳疾患だ。
うつ病患者は、気力が衰え動くのを嫌ってほかのことに関心を示さない。暴力に発展するのは、キム容疑者のように、ほかの要因がある場合に限って起こる。
うつ病になると、最初は一人で苦しみ、不安、心配、焦りがひどくなる。思考力も落ち、言葉が遅くなる。さらに症状がひどくなると、「自分は間違っている」、「自分は生きる価値のない人間だ」と自分を責め、自害や自殺を試みる。
また、うつ病患者は寝つきが悪い。しかし、いったん寝つくと今度は起きるのが大変だ。食欲が低下し、体重は減り、息苦しくなる。げっぷ、下痢、便秘、頭痛、めまい、疲労感、筋肉痛、性欲の低下などの症状も出る。
うつ状態は、ほとんどの場合、朝起きたときに最も強く、午後になると薄れていく傾向がある。
▲うつ病は治療可能だ〓歯が痛ければ、歯医者さんに診てもらうように、うつ病は精神科で治療を受ければ治る。うつ病は精神科の中でも最も回復率の高い病気だ。ほかの病気と同じく、早期に治療するほど治療効果は高い。
病院で薬物治療を受ければ、軽重に関係なく7割は効果がある。以前は薬を飲むと瞳孔が開き、よだれを垂らすなど副作用があったが、最近の薬はほとんど副作用がない。
しかし、薬は服用後2〜6週間経って効果が現われるため、焦らずに余裕を持って服用することが大事だ。また、症状が改善されたからといって、すぐに服用をやめると、治療は難しくなる。これとともに、病院ではカウンセリングなどの精神治療などを通じて、患者のうつ病をやわらげている。
うつ病の治療には、家族の役割も大事だ。家族は「うつ病は治療可能な疾患だ」と患者に随時話して勇気を与えなければならない。また、薬の服用も手助けしなければならない。
うつ病患者は、些細なことにも傷つきやすいため、怒鳴ったり、叱ったりしてはいけない。患者が「死にたい」と口にしたら、必ず医者に知らせて相談を受けるようにすることだ。趣味や宗教などを勧めるのはよいが、強要してはいけない。
(助言=ソウル大病院神経精神科のクォン・ジュンス教授、成均館大医学部・三星ソウル病院精神科の金ドグァン教授)
李成柱 stein33@donga.com