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[オピニオン]解禁されたワグナー

Posted August. 20, 2003 21:51,   

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1950年代以降89年に亡くなるまで世界音楽界の「皇帝」として君臨していたマエストロ(名指揮者)ヘルベルト・フォン・カラヤンが若い頃、ドイツ帝国の総統アドルフ・ヒトラーが彼の演奏会を聞きに来た。その日の演奏作品はワグナー(1813〜1883)の楽劇「ニュルンベルクのマイスターシンガー」だった。だが、ヒトラーは、公演の途中で怒って劇場を出て行ってしまったという。男性歌手の一人が酔っ払って、自分のパートを間違えたためだった。一度の公演に5時間もかかるこの作品を全部覚えてしまうほどワグナーの音楽をよく知っていたヒトラーの一面を知らせるエピソードだ。

◆ヒトラーがワグナーの音楽に熱狂していたということはよく知られている。ヒトラーの伝記には12歳の時、ワグナーの「ローエングリン」を初めて聞き、感動の涙を流したという逸話も出てくる。ヒトラーは戦争の渦中にも、ワグナーの音楽を演奏するバイロイト音楽祭に参加した。何がこれほどヒトラーをワグナーの音楽に心酔させたのだろうか。ワグナーは、オペラを現代の総合芸術の嚆矢(こうし)と言える楽劇の形式として一段階レベルアップさせた「巨人」として崇められているが、思想の面では反ユダヤ思想に徹したドイツ民族優越論者だった。まさにこの点で、ユダヤ人を600万人も虐殺したヒトラーの精神世界にとって滋養分になっただろうというのが一般的な解釈だ。

◆ワグナーは、音楽史上最も議論の多い人物の一人に数えられる。彼の音楽を崇拝する人が多いだけに、タブー視する人もまた多い。人間的に見て、ワグナーは強情な利己主義者であり、借りたお金も返さない恥知らずであり、同僚の妻にまで手を出した「不道徳の化身」だった。その上、ナチ帝国の「代表音楽家」として崇められたのだから、彼の音楽に顔をそむける人が多いのも当然だ。だが、ヒトラーがワグナーの音楽が好きだったことは、ワグナーのとがではない。「ワグナーが犯したすべての非良心的な行動は、彼の作品のために犯されたという事実だけで許すことができる」と語った音楽学者アルフレート・アインシュタイン(物理学者アルベルト・アインシュタインの従兄弟)の言葉のように、その人柄と彼の芸術を区別して見る必要がある。

◆一昨日、ドイツのシュレーダー首相が、ドイツ政界の長いタブーを破って、127年の伝統を持つバイロイト音楽祭に出席した。これで、反ユダヤ主義の象徴として烙印を押されたワグナーの音楽に、一種の「解禁」措置が行われたことになる。これに先立ち、一昨年7月には、ユダヤ出身の指揮者ダニエル・バレンボイムが、戦後初めて、エルサレムでワグナー音楽を演奏した。人々はようやく、ワグナーの音楽を音楽そのものとして鑑賞することができるほど余裕を持つことができたのだろうか。

宋文弘(ソン・ムンホン)論説委員 songmh@donga.com