1世代のベンチャー企業家である鄭文述(チョン・ムンスル)前ミレ産業の社長は年間24〜30%に及ぶ高い私債を借りて会社を立ち上げた。事業の初期段階では銀行の資金を何回か借りたが、その後銀行とは完全に背を向けるようになったという。銀行から資金を借りるだけの信用がないからではない。銀行からあれこれつらい思いをさせられるより、むしろ利子が高くついても私債を使ったほうが気が休まるからだという。付随費用を考慮すれば、銀行の貸し出し利子が安い方でもなかったと彼は語る。
◆貸し出しと関連した銀行の横暴の中で代表的なものが「両建」(りょうだて)だ。銀行が貸し出しを行う代わりに貸出金の一定額を預金するよう強要する行為のこと。「両建」をした顧客は二重に不利だ。まず、実際に使える貸出金が減る。また、預金金利は低い代わりに、貸出金利は高く、実質的な金利負担が大きく増える。「両建」が非常に盛んに行われた時は、貸出金の70%以上を再び預けさせるケースが数多くあった。中には、預金利子を顧客に与えずに銀行の役員のゴルフ費用や遊興費用に使われるケースさえあった。
◆「両建」がはびこった理由は、官治金融のためだ。政府は1990年代の半ばまで、企業に安い資金を供給するために主な貸出金利を直接統制した。資金に対する需要は多く、供給は少ないため、銀行は「両建」の誘惑に駆られた。幸い、無理な「両建」は金利自律化をきっかけに次第に減り、資金需要が減少した最近に至ってはいち早くなくなりつつある。だが、今月初めに銀行の保険商品販売が認可されてから、「新種の両建」が登場したという。一部の銀行が貸し出しを受けている顧客に特定保険に入るよう強要し、「泣く泣く保険に加入した」という苦情が少なくない。
◆銀行(bank)と保険(assurance)の融合を意味する「バンカシュランス」時代の開幕は、金融発展において大きな意味を持つ。かたくなな金融規制の一つである「金融会社間の仕切り」をなくすための最初のボタンをはめたと見ることができる。「バンカシュランス」を迎えた顧客は一カ所で、「ワン・ストップ金融サービス」を受けられると期待にあふれている。これに対する対応が貸し出しをえさにした保険加入の強要だとすれば後味が悪い。「新種の両建」慣行が拡散すれば、むしろ昔がよかったという言葉が出てこないとも限らない。さらに否定的な世論が高まれば、金融自律化が後退する事態が発生するかも知れない。銀行は自分のマイナスになる行為は自制すべきだ。監督責任がある金融当局は厳しい検査と処罰を通じて、悪い芽がさらに大きくなる前に切り落とさなければならない。
千光巖 (チョン・グァンアム)論説委員 iam@donga.com