16世紀、中国の明代にワンフーという科学者がいた。有人宇宙船を夢見た彼は、両手に火薬の筒を持ち、椅子に体を縛り付けた。下人が火をつけた。宙に飛びあがればよかったのだが、ワンフーは壮絶にも飛び散ってしまった。当代の中国人たちがその死をどのように評価したかは定かでない。
伝統的に、自然と宇宙を征服の対象ではなく、和合の関係で見てきた中国において、科学は歓迎されるような学問ではなかった。広々とした大地の中で、大きな争いもなく農業を営んできた中国人は、西洋人のように「なぜ」を追求しなかった。全体の中で「如何に」調和を成して生きるかの方が大事だった。天文観測から灌漑施設に至るまで、当時の西洋では夢にも考えられなかった数々の科学技術が、この国から生み出されているにもかかわらず、科学技術大国になれなかった理由もここにある。
◆彼らはもはや、神仙図のような風景の中で悠々自適する老子や荘子の末えいではないのだ。中国共産党政治局の常務委員は、9人ともみなエンジニア出身。ワンフーの夢は15日午前9時(現地時間)、中国初の有人宇宙船「神舟5号」の打ち上げ成功により、華やかに復活した。中国は、旧ソ連、米国に次いで、一気に宇宙強国に仲間入りした。欧州も、日本も入れなかったクラブである。旧ソ連の崩壊以降、宇宙を独壇場としてきた米国政府は、気が遠くなるほどのショックを受けたと西側の科学者は伝えている。
◆今なお多くの国民が貧困に喘ぎ、暮らしの幸福度を示す国連人間開発指数が96位に過ぎない中国である。それでも、莫大な研究費を注ぎ込んで有人宇宙船を打ち上げたのは「国民的な誇り」のためだと専門家は分析している。旧ソ連のユーリー・ガガーリン、米国のアラン・シェパードが自国の国民に愛国心を植付けたように、中国人は初めての宇宙人ヤン・リーウェイの無事帰還を待ち焦がれている。彼の成功は腐敗や失業などの「些細な」国内問題を乗り越え、中国の力を世界に知らしめた快挙として記憶される見通しだ。
◆江沢民が揮毫した「神舟」には、中国が西側科学技術に対する劣等感を拭い去り、21世紀のテクノロジーと経済分野の先頭走者になるという雄大な夢が込められている。「神舟」は、科学技術で経済発展の基礎を固め、資本主義で国の富を築いて、軍事強国への跳躍を図る中国を象徴している。北朝鮮関連の6者協議を主催し、米国が頼りとする政治的パートナーとして位置づけられた中国である。米国の一極体制以降は、中国の台頭を予見する専門家が少なくない。恐ろしい勢いで雄飛する中国よりも、「北東アジアの経済中心」と唱えながらも内輪もめに気を取られて我が家の垂木が腐っていくことにも気がつかない自分たちのことがもっと怖い。
金順徳(キム・スンドク)論説委員 yuri@donga.com