会社では「ムー課長代理」と呼ばれる李氏(39)。毎朝、車のハンドルを握るたびに「今日は上司と争うのはやめよう」と誓っている。「気性」を和らげようと、わざわざ静かな音楽を聴いている。しかし、その誓いは、毎回空振りに終わってしまう。会社で、上司の嫌みを耳にした瞬間、カーッと声を荒げた自分自身を発見するのだ。そして、決まって後悔する。
このごろ、話の途中で瞬間的に込上げる感情を押さえ切れず、相手に暴言や暴力を振るう人を数多く見掛けるようになった。インターネット、博打、セックス、ショッピング、麻薬などに嵌まってしまったことが原因で生じた問題を解決するために、衝動的に犯罪を犯したり自滅の道を歩む人も多い。
政治家が少しの辛抱で防げたはずの暴言を衝動的に口走ってしまったために波乱を呼び起こしたり、瞬間的な妄言によって公職から退く人も相次いでいる。
いずれも、瞬間的に衝動をコントロールできなかったために起こった出来事だ。21世紀の韓国社会は、衝動という病気が幽霊のごとくさ迷う社会なのではないだろうか。
▲衝動調節障害〓医学的に衝動は、脳の感情と記憶を担当する大脳辺縁系から発生する。元来、衝動は、脳の中で理性的な判断を司る前頭葉と大脳辺縁系の相互作用によってコントロールされる。
このような統制システムの異常から、後で困ることになると知りつつも行動に移したいとすれば、「衝動調節障害」という病気を持つ患者と言うことができる。
▲衝動調節障害の種類〓あらゆる中毒は、典型的な衝動調節障害に属する。米国の精神科疾患の診断目録である「DSM—Ⅳ」には、盗癖と賭博障害を「衝動調節障害」として規定付けている。しかし、学者たちはショッピング中毒、セックス中毒、インターネット中毒、ゲーム中毒、暴食、アルコール中毒、麻薬中毒なども、ここに含まれると説明している。
このような診断範囲には入らないものの、日常生活の中で衝動が高まる緊張感に絶えきれず、問題となる行動を繰り返すとすれば、広い意味の衝動調節障害に含まれる。とりわけ、対話の途中で攻撃的な衝動を押さえ切れない「間歇爆発障害」は、周りでもよく見かけられる。また、人に対する評価や気分が極端な「境界線人格障害者」も、衝動をうまくコントロールできない。
▲なぜ韓国には衝動調節障害が多いのか〓精神医学では、対話の途中でカーッとなるのは、誰かが無意識のうちに抑圧された部分を刺激したためだと説明する。言い換えれば、これは韓国社会では意思表示を合理的にするのが難しく、タブーが多いという意味でもある。
「切れやすい」と言われる人は、日ごろ自分の感情を過渡に抑えているために、衝動をコントロールできず爆発してしまうのだ。社会の規範が崩れ、道徳律が解体されるとき、境界線人格障害と中毒が増加するとの研究結果も多く出されている。衝動調節障害が多いということは、韓国社会の解体スピードがそれほど速いのを意味するという解釈もある。
▲治療と予防法〓精神科の診断目録に該当する中毒症状は、直ちに病院で治療する必要がある。日常的な衝動障害も、薬物治療で効果をみることもできる。
子どもが衝動的になるのを防ぐには、幼いころから感情を適度に表現し、駄々をこねないよう教えなければならない。また、何が良い悪いと教えるよりは、善悪を論理的に判断できるように教えることで、脳の前頭葉を活性化させるようにしなければならない。日ごろの趣味活動などを通じて、無意識のうちにたまった葛藤を解消するように努めるべきだ。酒を呑んで解消するのはよくない。飲みすぎは、脳の衝動調節システムを損傷させ、かえって衝動的にさせる。
しかし、一般に衝動性は性格、無意識と関係しているため、簡単に解決できない場合が多く、精神科医のアドバイスを受けた方がよい。(アドバイス〓ソウル大学病院神経精神科、柳インギュン教授)
李成柱 stein33@donga.com