Go to contents

[オピニオン]私たちの歪められた英雄

Posted October. 26, 2003 23:21,   

한국어

1970年代の貧しい欧州留学生社会の中で、いつ訪ねていっても真心のこもった食事と、イデオロギーについてタブーを気にせずに語らうことのできる何軒かの家のうちの一軒が、宋斗律(ソン・ドゥユル)博士の家だったという。同じ留学生たちに、あれほどのホスピタリティーを施せるだけの「活動費」と「主体思想」のうち、どちらが宋博士にして、より北朝鮮に近づかせたのだろうか。氏の編み出した北朝鮮体制に対する「内在的アプローチ」法は、氏が北朝鮮で享受した高い地位の結果だったのか、それとも原因だったのだろうか。氏が「司法処理」の危険を冒して、韓国行きという必死の冒険に踏み切ったのは、氏の余生を赤化統一の基盤づくりに捧げようとする北朝鮮への忠誠心からなのだろうか、それともヨーロッパに残っていては、これ以上北朝鮮から「活動費」を受けられなくなったからという事情のためだろうか。

◆宋博士本人の入国の動機や本音、そして氏を韓国に送り、呼び寄せた人たちの思惑が何であろうと、氏の韓国行きは、氏から神秘のヴェールを脱がしてしまった。国家情報院と検察の召喚調査過程の中で、氏が躊躇しながらも、一つずつ認めては覆して繰り広げる捜査当局との頭脳プレー、氏の不明確なことば、定まらない視線、そして思想的立場を明らかにすることを拒んだことなどは、氏が知的な厳格性と大胆性を備えた「境界人」ではなく、機会主義者であり、自らと他人に対して素直になれない「灰色人」であることをはっきりと見せてくれた。氏をヒーローとして崇拝した無垢な追従者たちには苦い幻滅を、そして氏とイデオロギー的な見解は異なれど、知識人らしい堂々とした振舞いを期待した多くの知性にとっては、心苦しい思いをさせた。

◆私は、宋博士を韓国社会の中で自由に活動させた方が、氏に対する最も過酷な刑罰になるのではないかと思う。そうなれば、自由言論の集中的なスポットライトを浴びた氏の恥部が露になり、知識人との思想討論の中で、氏のイデオロギー的基盤の脆さが余儀なく暴かれ、若者を対象にした主体思想の教化活動は、氏に失望した若者たちから冷遇され、からかわれることになるだろう。氏が大物思想家、知的ヒーローの代わりに、イデオロギー的イカサマ師と判明すること、そして氏自身のやむを得ない自己悔悟と自己不信が、知識人宋斗律に対して課せられる最も大きな懲罰ではないだろうか。

◆氏に対する司法処理は、わが国の法律の尊厳性を損なわずに、類似したケースとの衡平性に背かないようにすればいいだろう。司法処理と関係なく、氏が今からでも自分の知的な誤謬と破産を率直に認めるなら、人間宋斗律には、まだ救いの手が届く可能性がある。

徐之文(ソ・ジムン)客員論説委員(高麗大学教授)jimoon@korea.ac.kr