これまで最高裁判所の判決文と憲法裁判所の決定書には、「主文」の決定を導いた多数意見の数や、少数意見を開陳した裁判官の名前、少数意見の要旨が明示されてきた。全員一致の判決なら、「裁判官全員の一致した意見として、主文のように判決を言い渡す」と書いてある。多数意見による決定の場合は、「裁判官○○○、裁判官○○○の反対意見がある他は、他の裁判官全員の意見の一致による」と明らかにし、反対意見を開陳した裁判官の意見を盛り込む。
◆憲法裁は、大統領弾劾事件に対して棄却決定を下し、「主文のように決定する」と述べるに止まり、少数意見の裁判官とその要旨を明らかにしなかった。異例的に、少数意見を明らかにできない理由を決定文の末尾で説明した。憲法裁判所法第34条1項に評議を公開しないように規定されているのは、裁判官の個別意見や意見の数も公開しないという意味であって、例外を認めるには特別規定が必要で、憲法裁判所法第36条3項に法律の違憲審判、権限争議審判、憲法訴願審判に対して例外を認める特別規定があるものの、弾劾審判に対しては例外規定がないということだ。
◆果たして、この論理は正当だろうか。主審裁判官は「死ぬまで言えない」と語った。憲法解釈の最高機関が憲法裁判所法を狭く解釈し、主審裁判官が死ぬまで明らかにできないと言うほどなら、これは正常ではない。国民の名で命令する専制権力ほど恐ろしい権力もないと言うが、いま韓国社会は、批判に反対と言う烙印を押し、脅威を与える恐ろしい群衆が、憲法裁判官の口をふさぐこともあり得る。
◆最高司法機関の決定は、少数意見を明記するのが世界各国の共通した原則だ。振り返れば、少数意見が正しかったことが証明された歴史もあり、少数意見を述べた裁判官が「偉大な反対者」として崇められることもある。我々の祖先は、命をかけて王に直言する儒者精神があった。憲法裁判官ならその程度の勇気と信条がなければならない。軍事独裁下で、最高裁の裁判官たちは仕返しを甘受して、少数意見を述べなかっただろうか。韓国社会が、少数意見を包容できないほど殺伐したせいか、憲法裁判官ら指導者の気概がなくなったせいかは、知る由もない。
鞖今子(ペ・グムジャ)客員論説委員(弁護士)baena@chol.com