01年9月11日、ホワイトハウス近くのホテル。米中央情報局(CIA)のテネット長官はボレン元上院議員と朝食を取っていた。長い間テネット長官の政治的な後援者だったボレンが聞いた。「最近の悩み事は何かね」「ビン・ラディンです」。テネット長官はもう2年前からオサマ・ビン・ラディンが重大な脅威になるだろうとボレンに話してきた。「どうやって一人の人間がそんなに深刻な脅威になるというのかね」「それは彼らの力を知らないから、そう言えるんです」。一昨年に出版されたボブ・ウッズワードの著書、「戦争中のブッシュ」の冒頭に出てくる逸話である。
◆一昨日テネット長官が辞任を表明した。ブッシュ大統領は辞めていくテネットにあらゆる賛辞を並べているが、「事実上更迭」と見る意見が多いようだ。そうでなくてもテネット長官をめぐって、同時多発テロを事前に防げなかったという批判とイラクの大量破壊兵器に対する情報判断のミスなどがやり玉にあげられていた。大統領選挙を控えて、イラクに後ろ足を引っ張られているブッシュ大統領としては「スケープゴート」としてテネット長官が必要であったかもしれない。
◆テネット長官はボレン元議員の推薦で、前任のクリントン政権と縁を結んできた人物だ。1992年国家安全保障会議(NSC)の情報担当官に任命され、95年にCIA副長官を務め、2年後に長官となった。二つの政権に7年間もCIA長官として勤めてきたのだから能力欠如とは思えない。最近ブッシュ政権が同時多発テロの警告を無視したと非難したクラーク元NSCテロ担当官も、テネット長官は擁護した。
◆CIA長官はCIAのみならず、残りの10余りの情報機関を総括監督する情報共同体(Intelligence Community)の首長だ。最高位の情報参謀として大統領に報告する最終情報を生産するのが彼の任務である。全世界を見渡す「目」と「耳」を持っているのだから、情報の水準が高いことは言うまでもないが、同時多発テロ以来、情報機関の改革を求める声が一層高くなった。だが、それより重要なことは大統領をはじめとするハイレベルの政策決定者の「情報消費能力」を高めることではなかろうか。
宋文弘(ソン・ムンホン)論説委員 songmh@donga.com