人間がこれほどまでに残酷になれるのだろうか。無実の外国の民間人を表現しがたいほど悲惨な方法で殺害したイラクの武装グループも血と涙を流す人間なのか。34歳の平凡な韓国人金鮮一(キム・ソンイル)さんにふりかかった悲劇は、想像しがたい蛮行だ。驚愕、憤慨、糾弾という人間的な表現では、犯行グループの獣じみた悪行を言い尽くすことはできない。余りのことに体が震え、あいた口がふさがらない。
犯行グループは金さんの遺族はもちろん韓国国民の胸に消えることのない傷痕を残した。「助けて」と喚く金さんの絶叫、死を目前に跪いて泣き咽ぶ最後の姿が韓国国民の胸を切りつけた。彼がしたことと言えば、学費を稼ぐために危険を承知でイラクに行ったことが全部である。韓国人だということ以外、標的にされて殺害される理由はなかった。どんなに衝撃だったのか多くの国民がイラクへの復讐を促すほどだ。
犯行グループは人倫を徹底して無視し、金さんの死を韓国政府のイラク派兵と結び付けた。派兵中断と撤退を要求し、米国人の人質を殺害したときと同じく金さんにもオレンジ色の服を着せた。彼らは「あなたたちの軍隊はイラクのためではなく、呪われた米国のためにここに来た」とし、韓国を米国と同じく憎悪の対象と見た。そして交渉する余地も与えないでことを起した。金さんの命ではなく、派兵阻止が彼らの目標であることを明確にしたのだ。
なら、私たちの選択は自明だ。盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領も昨日、「テロを通じて目的を達成できるようにしてはいけない」とし、「断固とした態度で対処する」との姿勢を見せた。国家が卑劣なテロ犯罪グループの脅迫に屈することはできない。テロを強く糾弾し、決然とした構えで臨んで行かなければならない。これが「第2の金鮮一氏の悲劇」を防ぐ術である。
金さんを殺害した犯人たちは「自分たちが招いたことだ」という意味深長な言葉をした。極悪非道なテロによって何かを得られると、私たち自らそんな余地を見せたことはないか、自身を振り返るべきだ。政府が譲歩すれば犯行グループは他の脅迫手段を突きつけてさらに強い圧迫を加えてくる可能性がある。
衝撃と悲しみの中でも冷徹に事態を収拾しなければならない。ただちにイラクのみならず、他の中東地域の韓国人保護のための非常対策が急がれる。国内のテロ対策ももう一度点検し、手抜かりのないよう補完すべきだ。
国民も冷静を取り戻すべきだ。糾弾の対象は犯行グループであり、善良な多数のイラク国民ではない。国内に居住するアラブ人に腹いせすることは、犯行グループに隙を見せることである。感情に駆られて無分別な行動に走っては決していけない。
政府がそれなりに最善を尽くしているが、至らないところが多く目に付いて残念である。犯行グループが違うとはいえ日本人の人質は無事解放されたのに、なぜ私たちは失敗したのかという国民の叱責を免れることはできない。政府は金さんの拉致時点を正確に把握できず右往左往した。イラクを助けるために派兵したということをイラク人にきちんと納得させなかったことも大きな間違いである。
一国民の死によって触発されたが、今は国全体の危機である。国民も政府も賢明に対応すべきである。こんな時こそ国論を集めるべきだ。