『カクテル・シュガー』/コ・ウンジュ著/301ページ/9000ウォン/ムンイダン
最もよく読まれる作品は、家が競売にかけられ、未来の暗い浪人生ユリが、ポルノカメラの前に立つようになった過程を描いた『ユリ』だ。危機に追い込まれた両親から捨てられたも同然のユリは、自分の裸を撮るカメラの前でもひるむことはない。将来に大きな執着がないのだ。彼女は、だんだんエスカレートし、挙句には命を投げ出す「スナッフ・フィルム」の撮影までするようになる。
当初原稿用紙700枚だった小説を200枚に縮めたため、展開のスピードが速い。「ユリ」という独特のキャラクターに妙なリアリティーが漂う。「見合い市場」に目覚めた早熟な友人ジンアが、ユリに打ち明ける話もおもしろい。ジンアは、踊りも上手く金もある別名「ブレッド」とは寝ても、結婚はしないと言う。そして「あいつはビジョンがないじゃない。10年後にはせいぜい商売でもしているわ。私よりレベルの低い女達が、医者や検事の奥さんと呼ばれてうぬぼれるのを、私は見てられない」と言う。
『モザイクの絵』と『あなたの声』は、不倫を描いている。『モザイクの絵』には、不倫相手の男性の妻と会うことにした、ある若い女性の声が描かれている。『あなたの声』は、夫の若くて挑戦的な不倫相手と、電話で露骨な話をする30代後半の女性の肖像画が描かれている。
タイトル作品の『カクテル・シュガー』は、不倫に身を任せた男女が、実際はチェーンのように編み込まれているという「多重不倫」の模様を描いている。カクテル・シュガーとは、カクテルのグラスのふちにつけられた一種のキャンディ。この作品では、この男の手からあの女の手へと回りまわる。「恋人と一緒に寝そべるのは本当にドキドキするが、妻(あるいは主人)には申し訳ない」と考える不倫男女の後頭部をうつような小説だ。
ベテラン作家チョ・ソンギ崇実(スンシル)大学教授は、この作品集の解説のタイトルを「巨大な不倫の輪舞」とし、この作品集に現れる露骨なシーンに注目している。
短編『モザイクの絵』に登場する不倫女性は、女性の陰部のような花を主に描く米国の画家ジョージア・オキーフの切り絵を合わせながら、こう言う。「あなたがもしこの絵で性的な象徴を感じるなら、それはまさにあなた自身の執着を感じているのよ。」不倫をしてもしらばっくれる現実、それがまさにコ・ウンジュが描こうとした世相の本質なのかも知れない。
權基太 kkt@donga.com