「施設を出てからお金を借りることができる人は、手を上げてください」
10日、京畿道安城(キョンギド、アンソン)の脱北者定着支援施設のハナ院。卒業式(59期)をすませ、韓国社会へ第一歩を踏み出す脱北者152人に、ハナ院の関係者は「金を借りる」話から切り出した。政府が一時払いで支給する初期の定着支援金が、マンションの賃貸料より少ないためだ。脱北者は「不足分」を調達しなければ、住居を設けることができない。
韓国に身寄りのないユ・ジンさん(45、仮名)は、足らない数十万ウォンを工面することができず、結局他の卒業生たちを見送った後、ハナ院に残った。それから10日。いつまでこのような生活が続くのか分からない。ユさんのように資金調達のできなかった卒業同期生3人は、知り合いの家に住んでいたが、最近、資金を調達して住居を設けた。
▲資本主義の壁にぶつかった脱北者〓ハナ院を卒業しても状況はよくならない。他の脱北者に約100万ウォンを借りてソウルY区に何とか定着したチェさん(32、今年7月入国)。彼はマンションの賃貸に定着金のすべてをつぎ込んだため、ラーメンを買う金もないと訴える。建設現場で働こうと13ヵ所に電話をかけたが、北朝鮮なまりのため、毎回断られたという。
定着したての脱北者は、取引実績を見る銀行から融資を受けることができない。
李さん(42、今年7月入国)も事情は同じだ。彼が真っ先にしたことは、マンション近くのリサイクル品収集箱から壊れた冷蔵庫を持ってきて修理したこと。李さんは、「ハナ院から出るやいなや、こじき生活をするとは思わなかった」と話した。脱北者の大量入国事態が繰り返され、脱北者の中には彼らのように社会に適応できない人々が増えている。
▲犯罪をさそう支援体制〓大量の脱北者事態にもかかわらず、政府の対応は依然として不十分だ。教育内容も過去に少数が入国した時と変化がない。脱北者は、ハナ院の教育課程で「ホームショッピング」、「マート」などの外来語を学びはするが、社会適応に必要な技術教育は受けない。
そのため一部の脱北者は、便法を使っている。定着金が支給される通帳を高利業者に預け、その定着金全額の半分を「割引」して受け取る。さらに、生存問題にぶつかった脱北者の一部は、犯罪の誘惑まで受けている。ハナ院を10日前に出た李さんは「働き口もなく、夕食も食べることができない状況では、盗んででも生きなければならないと考えてしまう」と訴えた。
▲政府のジレンマ〓政府もジレンマに陥っている。一時払いで支給すると定着支援金がブローカーの手に渡って、さらなる大量脱北者をけしかけることになり、これを阻止するために初期定着支援金を下げると、脱北者が自活に困難を来たすためだ。
政府は脱北者問題の主務省庁を、90年代初めまでの南北が体制競争をしていた時期は国家保勲処に、食糧難による集団脱北が始まった90年代中盤以降からは保健福祉部にしてきた。しかし脱北者1万人時代を迎え、脱北者問題を社会統合の試験台と認識して、主務省庁を統一部に移した。
このため、脱北者政策の基調も変わった。金銭的支援よりは自立に焦点をあて始めた。政府関係者は、「脱北者には金を与えるよりも、自立能力を育てなければならない」と話した。
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