日本人プロ野球選手である鈴木一郎は、2001年米プロ野球大リーグのシアトル・マリナーズに移籍してシーズンを迎えた。ある米国人記者が初めてニューヨーク遠征に行った一郎に、ニューヨーク・ヤンキースのホーム球場は気に入ったかと聞いた。個別インタビューに応じないことで記者たちに「悪名高い」イチローが、にこっと笑いながら答えた。「気に入りましたね。球場にモノが飛んでこなくて。『この馬鹿、へたくそ』というヤジが飛んでくるだけだから…」。イチローがなんとインタビューでユーモア感覚を見せてくれたのだ。
◆日本でイチローは7年連続打率1位、216打席連続無三振、69試合連続出塁など数多くの記録を塗り替えた。当然マスコミはトップスターであるイチローの後を追い、イチローは私生活は保護されるべきだとしてマスコミを避けた。両者の摩擦と葛藤は大きかった。イチローが日本で活動していた時に取材経験のある記者は「イチローはインタビューでも『はい、いいえ』としか答えなかったはずだ」と思い出を語った。そのためか、日本での大衆的人気は、現在ニューヨーク・ヤンキースで活躍中のホームラン打者、松井秀樹に比べて低かった。
◆米国のプロ野球専門家たちも、最初は東洋人打者のイチローを取るに足らない選手だと思った。シアトル・タイムのプロ野球担当記者のボブ・シャウィン氏もそうだった。しかし、同記者はシーズン開幕後しばらくして「お詫びのコラム」を書く。止まらぬ安打に進塁すれば投手を圧倒させる俊足、幅広く軽快な守備、力強い送球で走者を刺す強肩…。イチローの能力を見抜けなかった自分の過ちを読者に告白したのだ。
◆84年ぶりの米プロ野球最多安打記録更新が迫るや、日本の各マスコミはイチローの一打一打に大きな関心を見せた。新記録を打ち立てた日には、イチローが「なんと40分間も」記者会見を行ったと大騒ぎだった。ロッカールームで同僚選手と踊る姿には「イチローは冷静だとばかり思っていたが、こういう面もあったのか」と大きく報じた。敵に対するかのようにイチローに冷たかった各マスコミが、彼を褒め称えた。野球の天才イチローの価値は、いつもまったく同じに存在していたのに、新しいイチローが生まれたかのようだった。実体をありのまま把握することが難しいことは、マスコミだけに限った話ではないだろう。
東京=趙憲柱(チョ・ホンジュ)特派員 hanscho@donga.com