王朝時代、王様は民生を直接目にするため、よく微服潜行をした。朝鮮成宗(ソンジョン)はは、清渓川(チョンゲチョン)の広橋(クァンギョ)を通りかかったとき、橋の下で身を屈めている民に出会った。慶尚道(キョンサンド)から上京した金ヒドンだった。宿を探せなくて、橋の下で夜明かしをしていた金ヒドンは、「私たちの王様が善良で、民のみんなが気楽に暮らしています。それで、ナマコとアワビを王様に捧げようと持ってきたんです。王様のお住まいを教えてください」と言った。
◆韓国の大統領も民生ツアーに出たことは多いが、「微服潜行」ではなかった。全斗換(チョン・ドゥファン)元大統領は、明け方、在来市場のヘジャングク屋に立ち寄り、タクシーの運転手ら市民に会ったり、最前方の警戒所へ兵士たちを尋ねたりもした。明け方から悪口を言う人が誰なのかを知るためだとも言われたが、面と向かって悪口を言う人はいなかった。盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領も多世帯賃貸住宅や麻浦(マポ)自活後見機関などを訪れて、庶民の哀歓を聞く民生ツアーをする。大統領が成宗のように身分を隠して目と耳を開いたら、金ヒドンのような人に何人会えるか疑問である。
◆政治家の公開された民生ツアーは、ほとんど顔を立てることに過ぎない。02年、大統領選挙期間中、李会昌(イ・フェチャン)候補は「操作議論」に巻き込まれたりもした。庶民用の賃貸マンションを訪問したが、そこに住んでもいない新婚夫婦と予備カップルを参加させて「写真撮影ツアー」をしたということだ。鄭東泳(チョン・ドンヨン)統一部長官は、与党ヨルリン・ウリ党議長時代、一人暮らしの老人と在来市場を尋ね、中国も日帰りで訪問した。彼は、「本当に多くのことを感じた」と言ったが、広報用という批判を避けられなかった。
◆先月、臨時国会が終わると、ウリ党は「民生の中へ」を叫びながら、党役員だけでなく、所属議員のほとんどが分担して民生ツアーに出ている。7日には、二つのチームが仁川(インチョン)小商工人支援センターと京畿(キョンギ)信用保証基金安養(アンヤン)支店で、一日カウンセラーとして勤めたりもした。与党は、昨年夏にも民生ツアーをしたが、国民の暮らしぶりは日増しに厳しくなっている。「名物にうまいものなし」ということわざがあるように、広報用の民生ツアーだけでは民生に役立たないのだ。
林奎振(イム・ギュジン)論説委員mhjh22@donga.com