「韓国経済は潜在力を持っています。ただ、このような潜在力を十分発揮するためには、国民が力をあわせて政治をけん制しなければなりません。国民がうつ病にかからず、政治がうまく後をついてくるように引っ張っていかなければなりません」
経済界長老の金逷成(キム・ジュンソン)イスグループ名誉会長(86)は19日、ソウル瑞草区盤浦洞(ソチョグ、バンポドン)にあるイスグループ本社の8階にある名誉会長室で行った東亜(トンア)日報との単独インタビューで、韓国経済の現状を憂慮した。さらに、韓国経済の潜在力と国民の力量を信じていると述べながら、今こそ国民が政治を正しく支えるべきだとも強調した。
金名誉会長は多彩な経歴を持っている。韓国の高度成長期に第一(チェイル)銀行と外換(ウェファン)銀行の頭取、韓国産業銀行と韓国銀行の総裁、経済副首相を経験した。公職を引退した後は、三星(サムスン)電子や(株)大宇(テウ)、イスグループの会長を経て、現在、イスグループの名誉会長として旺盛な活動ぶりをみせている。
——最近経済が苦しいので国民の80%がうつ病にかかっているとの話も出ていますが。
「うつ病にかかる理由なんかありませんよ。韓国経済は先天的な潜在力を持っています。支持率がここまで下がった政権下でも3000億ドルを輸出を記録していますからね」
一時的な政治混乱や社会混乱のために勇気を失ってはいけないと語りながらも、「政治けん制」の必要性を力説した。
「まだ可能性はあります。うつ病は可能性がない時にかかるものです。可能性があるのにどうしてうつ病にかかるんですか。だからといって安心してはいけません。国民が力をあわせて政治をけん制すべきです。政治が後をついて来ざるを得ないように、国民がうまくリードしていくべきだという意味です」
輸出や経済成長率には「錯視現象」もあると診断した。「韓国経済に構造的な問題があるが、それを見過ごして、うまくいっていないのを『うまくいっている』と言うのは正しくないと思います」。
金名誉会長が指摘した錯視現象をもたらした構造的な問題は果たしてなんだろうか。
「国家経済が輸出に依存する割合があまりにも高いんですね。輸出だけに依存しているから、内需景気が低迷するのです。さらに、輸出においても上位の数社が占める割合が大き過ぎる。大手企業が輸出の中心となってい上、品目もいくつかに偏っています。このような弱点を考慮せず、『輸出がうまくいっているから大丈夫』というのは無意味ですね」。
グローバル競争から目をそらしている政界や労組についての憂慮が続いた。
「中国やインドなどが韓国を追いついてくる速度は恐ろしいほどです。このままいくと、韓国が先進国と途上国の狭間で苦労する厳しい状況に直面することになります。労使関係は本当に問題がたくさんあります。韓国ほど労使紛争の多い国はありません。単なる賃金上昇による企業経営の悪化が問題ではありません。経済全体に与える否定的な影響があまりにも大きいのです。政治はこれを変えていかなければなりませんが、その役割をまともに果たしていません」
——為替レートの問題についてはどうお考えですか。
「企業がウォン相場のためにこうむっている損害が5〜10%にも上ります。環境は難しくなりつつあります。為替レートは結局お金の価値です。米国は財政赤字が大きいので、米ドルに比べて、ウォンの価値が上がるのは仕方ないことだと思います。しかし日本の円に比べて、韓国のウォンの価値が上がるのは、確かに問題があります。政府が為替政策を間違った結果です。経済が厳しくなると、お金の価値も下がるべきだがウォンの価値は上がっています。とうしてウォンの価値が上がるのですか。韓国の外貨保有高はドイツやフランスの3倍もあります。海外投資を多くすべきだったが、政府はそのような環境を作りませんでした」
——企業家たちの企業家精神の不足は問題ありませんか。
「最近、各企業は海外に出て投資し、開発する企業家精神が足りないようです。かつての企業家たちは、世界をまたにかけて、ほんとうにがんばりながら駆け回りました。ただし、国内施設への投資環境もよくないので、海外投資は容易なことではありません。お金を抱えていながら、政府から金を借りることは簡単なことではありません」
反企業の感情が根強い現実については、「企業家の努力が必要だ」とも忠告した。
「反企業の感情は一夜にして作られたものではありません。すぐ改善できるものではありません。米国や日本に反企業の感情が少ないのは、それほど企業が社会に多くの貢献をしているからです。透明な経営が優先されるべきです。労働者の賃金を上げ、株主に配当をし、その上、余る金があれば社会に還元するという雰囲気が作られるとき、反企業の感情はなくなるでしょう」
企業支配構造の改善については、民間機関投資家の育成を解決方法として示した。
「財閥は3代までは持つけど、4代や5代までは続きません。支配力が落ちるからです。結局、先進国のように、資本と経営が分離されることになると思いますが、このようになるためには、機関投資家の割合が30〜40%ぐらいはならなければなりません。韓国は外国人株主の割合が40%を超えており、個人の割合は30%程度です。機関投資家は18%しかありません。現政府が年金や基金を動員して、機関投資をしているが、これは危険なことです。政府が民間企業を支配することもできるからです。民間の機関投資家を育成して、企業支配構造を変えていかなければなりません」
市場原理に合う不動産対策の重要性も強調した。
「金利が低く、要求払い預金が多いので、不動産への投資意欲が強くなると分析することもできますね。政府の不動産政策には問題があります。政府が住宅を立てないように仕向けておいて、住宅価格を下げようとするのは、話になりません。国民所得が1万5000ドルで、輸出が3000億ドルなら豊かな国です。豊かな国ならば高級住宅への需要があるのは当前です。これは市場の需要、即ち実需要です。実需要は市場の機能に任せるべきなのに、税金で住宅の価格を抑えようとするから、副作用が生じるのです」
最近は20代の90%が失業者だといって、「2・9・100(20代の90%が100=ペクス=失業者)という言葉まで出回っていると話すと、金名誉会長はやりきれない表情を浮かべた。
「経済構造が大企業中心なので、働き口が多くないですね。雇用は中小企業が解決してくれるべきです。中小企業をどう育成するかは、大企業の責任が大きいんです。中小企業が技術を開発するためには、大企業が果敢に技術と資金を支援し、政府も中小企業の育成政策で後押ししなければなりません。輸出型中小企業を増やしてこそ、雇用も増えることになります。知識サービス産業と観光産業を育成することも急務ですね」
来年の大統領選挙を控えて、予備候補たちは皆、経済再生を叫んでいる。経済再生のためのリーダーシップを聞いてみた。
「個人的には大統領選挙に関心がありません。どんな政権が誕生しても経済問題を容易に解決することはできないでしょう。ただし、誰が選ばれても、経済政策の樹立に集中する政治・社会的な雰囲気を作ってほしいんですね。結局、国民がそのような雰囲気をつくっていかなければならないでしょう。政治が経済を一度でだめにすることはできません。しかし、経済がさらにうまくいくか、だめになるかは政治の責任です。次期政権が韓国経済の潜在力を信じて、これをうまく発揮できるように努力すれば、韓国経済の先行きは明るいですね」
金融界の経済部処や産業界などをあまねく経験した経済の元老である彼は、ここ数年、何冊かの小説をだして、目を引いたりもした。毎週1,2回、ゴルフ場へいくほど健康もよい。
金会長はこれまで、『欲望の部屋』(1998)、『鳩の力説』(2000)、『クローン人間』(2005)など、多くの小説を書いてきたが、これからは経済関連の本を書くつもりだと述べた。
「年をとると、私が韓国のために何をすべきか考え込むようになりますね。じっくり考えてみた結果、結局経済しかないですよ。それで、証券市場や為替レートをどう正常化すべきかについての本を書いています。具体的な資料を集めているところです」
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