米国で大統領が替われば、最も先に引継ぎをするのが核カバンだ。核カバンは、有事の際、大統領が核兵器発射の決断を下すことができる装置だ。ケネディ大統領時代の1960年代初め、キューバミサイル危機直後に初めて登場した。旧ソ連もこれに対応して、ユーリ・アンドロポフ書記長時代の1983年、核カバンを導入した。核カバンは、影のように軍統帥権者につきまとう。韓国では、2月25日午前0時に軍統帥用指揮電話ボックスを移譲することから政権の引継ぎが始まる。
◆しかし、核カバンや軍統帥用指揮電話ボックスの移譲は、政権交代の象徴的な措置にすぎない。実質的な政権の引継ぎは、総体的な大統領としての業務を受け継ぐことであり、新大統領が執務室に足を踏み入れた瞬間から始まると見るべきだろう。ところで、李明博(イ・ミョンバク)大統領が大統領府入りした2月25日夕方から、内部のコンピューターが作動しなかったという。しかも修復まで十日もかかり、その後もしばらく正常に作動しなかった。李大統領が15日、行政安全部の業務報告の席で直接明らかにしたことだ。
◆盧武鉉(ノ・ムヒョン)前大統領は就任後、「デジタル大統領府」を作ると言って、「e知園」というインターネット統合管理業務システムを開発した。自分を含むシステム構築に参加した5人の共同名義で、06年2月に特許まで獲得した「e知園」は、「デジタル知識庭園」の略で、文書の作成から決裁後の記録まで、すべての段階の業務処理過程を一目で把握できるシステムだ。盧前大統領側は、これを通じてすべての大統領府の業務を引き継ぐと言ったが、正常な業務の引継ぎどころか、コンピューターの作動すらまともになされなかったのだから、信じられないことだ。
◆情報通信大国を自任する大韓民国で、それも国政の心臓部である大統領府で、どうしてこのような荒唐無稽なことが起りうるのか。政権引継ぎ過程の単純なミスや手落ちと見るには、あまりにも重大な事態だ。一体、大統領職引継ぎ委員会は、英語教育で世間を騒がせたこと以外に何をしたのだろうか。誰の過ちかは分からないが、二度とこのような不祥事が起きないよう責任の所在をはっきりさせなければならない。これを機に、円滑で隙のない政権引継ぎのための緻密な青写真をつくることだ。
李進寧(イ・ジンニョン)論説委員 jinnyong@donga.com