金剛山(クムガンサン)観光客の射殺事件がおきた11日午後2時、第18代国会開会の演説のため国会に到着した李明博(イ・ミョンバク)大統領は、演説文の修正問題を巡って緊急参謀会議を開いたという。演説予定時刻は午後2時20分だったので、わずか20分しか余裕がなかった。演説文の「北朝鮮への全面的な対話の提案」という内容を修正するか、はずすべきだという一部の意見もあったが、予定通り強行すべきだという主張がより多かったという。このような重大な事柄が、その場での密室会議で決まったのだ。李明博政府の危機管理システムがどれだけずさんなものかを、見事に見せ付ける例に他ならない。
いくら観光目的とはいえ、敵性国家の北朝鮮に韓国国民が毎日、数百、数千人がわたることになれば、いつ、どのような突発事態が起こるか分からない。にもかかわらず、国政の最高決定権者が判断の根拠とする資料が、民間企業の報告しかないなど、とんでもないことだ。軍や国家情報院、統一部は一体何をしているのか。合同参謀本部が当初、現代峨山(ヒョンデ・アサン)関係者の言葉だけを聞き、朴ワンジャ氏の死因を、「疾病死と見られる」と大統領府に報告したこともさることながら、その後事実を確認してからも、訂正報告を行わなかったことは、正常な国家では想像すらできないことだ。
危機管理のコントロールタワーとなるべき大統領がその役割をきちんと果たせなかったことも、見過ごすわけにはいかない。危機情報状況チームが存在するものの、臨時組織である上、前政権の政府に比べてそのプレゼンスや機能、専門性も一段下がっている。緊急を要する状況が発生しても大統領への直接報告すらできない。大統領府が今回の事件を認識し、大統領に報告するのに1時間50分もかかった理由が分かるような気がする。
危機はどの国でも起こりうる。問題はそれに対処し、管理する能力だ。政府の能力はそれによって判断される。その点において、李明博(イ・ミョンバク)政府は落第点に近い。危機の実態を正確に認識できず、その対応にも失敗した結果が、ここ2ヶ月間の厳しい「牛肉騒動」だったにもかかわらず、また同様のことが繰り返されている。
一部では国政運営システムや危機管理システムは故障したわけではなく、そもそも存在すらしていないという指摘も出ている。大統領府と各省庁とのコミュニケーションもうまくいかない上、組織や公務員らは自分の居場所が分からず、宙ぶらりんの状態に置かれている。「インキュベーター政府」という言葉まで出回っている。
「いくら強い鎖も、その中の最も弱い輪によってその強さが決まる」という言葉がある。政府も例外ではない。李明博政府が「弱い輪」を見つけ出して補強しない限り、再び何が起こるかわからない。