「彼らはまるで一つの有機体に属しているように見えます。一人に触ると、みんながその感触を感じているようです」。韓国で「ベルナール・ブーム」を起した作家ベルナール・ヴェルベールの小説「蟻」では、ポンテンブロ森の地中に数ヵ月間閉じ込められたが、蟻の助けで命拾いした人々を見て、救助隊員が交わす話だ。太陽の光も、食べ物もない地中に閉じ込められた人々が生きる道は、蟻のようになることだけだった。全体の生存者の中で、個々の生存を保障してもらう蟻の社会のあり方に従ったものだ。
◆小説の作り話に過ぎないのだろうか。教養科学書としては、珍しくベストセラーになった崔在天(チェ・ジェチョン)梨花(イファ)女子大学教授の「蟻帝国の発見」を読んでみると、蟻は人間社会と驚くほど似ている。蟻社会の徹底した分業と協業が見せる効率性には舌を巻く。組織を救うために自爆する蟻、女王蟻を狙って逆賊謀議をする蟻、植物を保護して見返りをもらう蟻等々。蟻と人間は、地球の2大支配者だが、蟻は1億年以上、生存しているという点で、我々人間が学ぶべきことがもっと多いかも知れない。
◆景気低迷を迎え、米国人の生活スタイルが、さらに働いて遊びは減らす「蟻モード」に変わっているという。世論調査機関ハリス・インタラクティブによると、米国人は昨年に比べ、週当たりの労働時間は1時間増え、余暇の時間は4時間減った。働きもせず遊びもしない3時間は、コンピューターや携帯電話など無線サービスを使って情報を検索しながら過ごす。情報検索はアウトドアのレジャー活動に比べ、お金がかからないという点で、もう一つの蟻モードと言える。
◆蟻モードは、米国だけの現象ではない。今月初め、あるオンライン就職サイトがサラリーマン1231人を対象にアンケート調査を実施した結果、69%が今年の年末は例年に比べ、ストレスを受けていると答えた。ストレスの一番大きな理由は、リストラに対する不安だ。経済が厳しいほど、人々は臆するしかない。サラリーマンは進んで残業をし、会社からはじき出されないように努め、主婦らはお出かけを控えて財布の紐をきつく縛る。しかし、独りばかり死に物狂いで働くのは、蟻の徳目ではない。危機から脱するために必要なのは、蟻社会で見える優れた協業と分業の効率性であるだろう。
鄭星姫(チョン・ソンヒ)論説委員 shchung@donga.com