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[オピニオン]記憶を消す薬

Posted April. 09, 2009 08:14,   

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アレックス・プロヤス監督の映画『ダークシティー』(1998年)は、未来に超自然的な力を持つ外界人が、人間の記録を勝手に操作するというストーリを描く。この映画は、「記憶が注入されたものだとしたら、あなたをあなたと言えるのか」という哲学的な質問を投げかけ、映画界から絶賛された。クリストファー・ノーラン監督の映画『メメント』は、短期記憶消失症になった主人公が殺人犯を追跡していく中、真実と信じていた事実が、実は歪曲された記憶の破片に基づいていることを見せる。

◆人間に記憶がなかったら、毎日顔を合わす家族の顔も知らないという恐ろしい状況が起きるだろう。『年を取るほど、どうして時間は早く経つのか』の著者であるオランダの心理学者、ダウバー・ドライスマは、「記憶というのは、好きなところで横になる犬と同じだ」と話す。本当に記憶したい瞬間は徐々に忘れられ、もったいないと思い、頭の中ですっかり消したい記憶は生々しく思い浮び、不愉快になる。そのような時には良い記憶だけを残し、悪い記憶は完全に消してしまう薬でも開発されたらいいのにと思う。心理学者は悪い記憶ほど長期間、記憶していると言う。

◆記憶を部分的に消せる魔法のような薬物が開発された。米ニューヨーク州立大学ダウンステート医療センター研究チームが、脳細胞の記憶の働きを促したり、妨げたりする酵素を利用し、記憶を消したり強化する方法を突き止めた。研究チームが電気衝撃装置を避ける方法を身に付けた実験用マウスにZIPという薬物を投与すると、マウスは衝撃装置を避けて通らなかった。衝撃装置のある地域に対する記憶を失ったためだ。

◆まだ、マウスを対象にした実験に過ぎないが、研究を拡張すれば、人間にも同様なことができるだろう。脳にZIPを投与すると、悪い記憶による不快感や恐怖心を無くすことができる。逆に記憶を強化する薬物を投与し、記憶消失などを治療できるということになる。その反対の状況も起きうる。凶悪犯が薬物を投与されることで、自分が犯した犯罪に対する記憶を失ったりするケースもありえる。記憶力が良くなりすぎて、不愉快な事件の詳細の状況まで、覚えて生きていかねばならないとしたら、それも恐ろしい拷問だ。どうやら「忘却は神様からの贈り物」という先人たちの言葉は間違っていないようだ。

鄭星姫(チョン・ソンヒ)論説委員 shchung@donga.com