♯1.エンジン部品を製造するA社が現金化できる当座資産は、3月末現在で2486億ウォンだ。景気が今よりよかった06年末より、1500億ウォン程度増えた金額だ。会社側は、「銀行から貸付返済の要求を受けるなど、予想しなかった決済需要に備えて、短期資金の割合を増やした」と話した。
♯2.個人事業を行っているB氏は今年2月、マネー・マーケット・ファンド(MMF)に預けておいた300万ウォンを引き出し、株式に投資して、20%以上の収益を上げた。最近、株を処分して収益を手にしたB氏は、この資金を再びMMFに預けた。
短期流動性(資金)の規模が史上初めて800兆ウォンを越えたのは、企業や個人が緊急資金の必要な時に備えて、短期金融商品に余裕資金を預けたことによってあらわれた現象だ。政府が経済活性化のために供給した資金が1ヶ所に集まったり、投機部門へと流れたりしたために、実体経済の回復が遅れているという指摘が多い。
●投資の待機資金や非常時向けの資金が増加
短期流動性が急増したのは、△高収益を出す投資に向けて準備したり、△非常状況に備えるための需要がかつてより増えたためである。
先月以来、公募株への申し込みに殺到した46兆ウォンと、仁川(インチョン)地域の新しいマンションに殺到した申し込み証拠金の中には、このような株や不動産への投資を念頭に置き、短期金融商品に待機していた資金が少なくないというのが、専門家らの一般的な見方である。韓国投資証券のチョン・ミンギュ研究委員は、「現在、市場に供給されている流動性が産業資金へと流れるためには、未来はあまりにも不透明だ」とし、「安全かつ収益性が高いと予想される分野へと金が移動せざるを得ないのが現状だ」と語った。
●ジレンマに陥った当局
金融当局は現在、短期資金が市場を歪曲するほどの過剰な流動状態であるかどうか、判断がつかず悩んでいる。
経済専門家らは、今の状況が過剰流動性の状態だという見方と、そうではないという見方とに分かれている。
過剰流動性だと指摘する専門家らは最近、名目国内総生産(GDP)比の短期流動性の割合が史上最高水準へと高騰し、非生産的な部門へと流れる資金があまりにも多いことに注目している。ハイ投資証券が、韓国銀行の資料を基に短期資金の範囲を別の設定して分析した結果、短期流動性の割合は今年3月末現在、58.3%と、昨年同期より10%ポイントほど急増した。
LG経済研究院のシン・ミンヨン研究委員は、「狭い意味の通貨量のみ見れば、短期性資金があまりにも多く供給されているのが現状だ」とし、「先に金利の値上げに踏み切っても物価は値上がりしないだろうということだけ確認されれば、通貨政策を展開する必要もある」と話した。シン研究委員は、「不動産や株式など、非生産的な分野へと流れた資金のため、資産価格にバブルが生じかねない」と懸念した。
短期資金の絶対金額だけで、過剰であるかどうかは判断できないという主張もある。三星(サムスン)経済研究所は03年7月、「短期浮動資金の急増の現状や解決策」と題した報告書で、「02年末基準の浮動資金は478兆ウォンにのぼり、このうち139兆ウォンが過剰資金だ」と分析した。しかし当時、報告書を作成した亞洲(アジュ)大学経済学部の崔熙甲(チェ・ヒガブ)教授は、「02年に比べ今は、企業が予想できなかった信用危険に備えるための資金を、かつてより一段を多く保有しており、単に流動性が多いからといって『過剰』だとは判断できない」と話した。
●「流動性の回収は時期尚早」
市場に供給された資金に対して、過剰かどうかを判断するのは容易なことではないが、直ちに通貨政策を動員して、資金を回収するのは適切ではないというのが専門家らの共通の反応である。企業の構造調整がまだ本格化されておらず、金融分野への衝撃がどの程度に上るかまだわからない現状の中、通貨安定証券を発行するなどの流動性回収政策を展開することになれば、金利が上がり、経済回復は厳しくなりかねないという。韓国銀行のある幹部社員は、「先日までは韓国銀行に対して、さらに積極的に流動性を供給すべきだとプレッシャーをかけていながら、市場がやや持ち直したからといって、『過剰流動性』の話を持ち出すのは適切ではない」と指摘した。
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