大統領が国民と疎通する方法の中で最も代表的なのが、演説だ。特に、事前によく練られた演説は、大統領の考えや国政哲学を整え、効率的に表現できる。李明博(イ・ミョンバク)大統領も、中道実用と親庶民政策などの国政基調を各種演説に盛り込んでいる。東亜(トンア)日報は、昨年2月25日の李大統領の就任演説から今年7月27日のラジオ・インターネットの対談まで、計286件の演説文を文体的(Stylistics)技法を援用して分析した。項目別に最も多く使われたキーワードを選定し、月別に頻度を抽出した。その結果、李大統領は、伝えようとするメッセージを、国民に十分に伝えることができていないことが分かった。
●「成長志向型」=減少、「庶民志向型」=増加
李大統領は、政権初期に「経済立て直し」を強調した。先進化、競争、グローバル・スタンダードを標榜する「成長志向型」の演説が主だった。しかし、昨年の米国産牛肉輸入反対デモや今年の盧武鉉(ノ・ムヒョン)前大統領の逝去を経験し、このような成長一辺倒から脱皮する姿を見せている。演説文でも、このような変化が読みとれる。
成長志向型のキーワードを克服、先進、企業、競争、グローバルなどに定めて分析した結果、昨年2月から4月は月平均85.3件となった。いっぽう、今年5月から7月は月平均67件で、約21%減少した。昨年4月には、19の演説で「先進(化)」という単語を44回も使用したが、先月は15回に減少した。
「未来志向型」のキーワードも減少傾向だ。希望、未来、新しさ、成功、機会などの単語が、昨年は月平均66回まで現われたが、今年に入って53件に減少した。単語の用例も、昨年は「疑念を抱くことは、落伍者のすることだ。希望と決意を持ってともに進もう」(韓米財界会議晩餐会)のように、競争を誘導する脈絡で使用することが多かった。いっぽう、今年は「疎外された隣人に物質的支援も重要だが、心からのいたわりがより大きな力になる。彼らに生きる勇気と希望を与えよう」(第41回国家朝食祈祷会)といったように、親庶民演説でよく使用された。
庶民志向型のキーワードは、昨年末と今年初めに集中的に増えた。庶民、温かみ、疎外、均衡、思いやりなどの単語の頻度は、昨年2月から4月までの月平均8件から、昨年11月から今年1月までで33.6件に増加した。ここ3ヵ月は17.6件と多少減少したが、昨年初めに比べると依然として多い。
●「統合および疎通志向型」大きな変化なし
李大統領は、昨年6月19日のろうそくデモに関連した特別記者会見で、「国民と疎通し、国民とともに歩む」と述べた。政権の問題点と指摘された統合と疎通不足を改善するという意味だった。しかし、少なくともキーワードの分類による今回の調査では、そのようなメッセージがうまく伝わっていないことが分かった。
統合、傾聴、疎通、奉仕、国民の(〜意思など、後続関連語含む)などをキーワードに選定して分析した結果、昨年2月から4月は月平均14件だったが、昨年11月から今年1月は6件に減少し、ここ3ヵ月は10.3件だった。
演説文の語尾の分析でも、同様の結果となった。約束や婉曲した主張を表わす「します」、「約束します」などの表現は、昨年初めの月平均73件から、最近は40件となった。
これについて、大統領府側は、「演説文のほかに、大統領が政策を通じて疎通と和合のメッセージを伝えている」と主張した。一部では、昨年までは経済危機克服に邁進したため、『私についてこい』といった表現が多かったかもしれないという説明もある。いっぽう、檀国(タングク)大学の鄭在哲(チョン・ジェチョル)教授(言論広報学)は、「大統領は依然として国民を説得しようとしている。そうすると、メッセージの伝達力が劣る」と評価した。
●「比喩と隠喩の不足、味気のない文体は短所」
李大統領は最近、千成𨛗(チョン・ソングァン)検察総長候補の指名を撤回する際、「ノブレス・オブリージュ(高い社会的身分に相応する道徳的基準)」を取り上げた。また、先月16日には、「金融危機は、企業倫理を忘却したためだ」と指摘した。これをめぐり、李大統領がセレブ政権のイメージから脱皮し、社会指導層と企業に対しても大胆な改革を注文するのではないかという声も出た。
しかし、ノブレス・オブリージュは、李大統領の就任演説後の初めての公式演説である「陸海空軍学生軍将校46期任官式祝辞」(昨年2月28日)ですでに強調していたことだ。李大統領の平素の考えだったが、別のメッセージに隠れて、これまで日の目を見ることができなかったわけだ。李大統領は昨年、宗教偏向の論議に包まれ、公式演説でもこのことを考慮しなければならなかったが、しっかり管理されなかった面もあった。これまで、仏教行事での10回の演説(書面演説含む)の平均演説文の分量は870字で、比較的短かった。いっぽう、キリスト教行事では6回の演説を行ない、平均分量は1550字と仏教に比べて多かった。むろん、演説文の長さが特定団体に対する関心の程度と必ずしも比例するわけではないが、大統領という立場を考慮すれば、配慮が必要だという指摘が出ている。
演説文の文体が味気ないという評価もある。企業家出身らしく、感性的な語彙よりもテーマ別に具体的なコンテンツを説明することが多い。いっぽう、世紀の名演説は、ほとんどが隠喩と比喩を豊富に使って感情に訴えるケースが多い。英国のウィンストン・チャーチル元首相は、第2次世界大戦当時、「みなさんに差し上げることができるのは、血と労苦、そして汗と涙だけです」と雄弁し、国民の魂を目覚めさせた。成均館(ソンギュングァン)大学の李サンチョル教授(修辞学)は、「李大統領は、祝辞にまで政策を並べ立てるケースがある。時と場所によって、国民の心に訴えかける方法論にもう少し配慮すべだ」と指摘した。