拝啓
こんにちは。ヒマラヤのアンナプルナにいるオ・ウンソンです。多くの国民の皆さんが、特に女性の方々が、私の挑戦を関心を持って応援してくださっているという話を聞き、感謝の気持ちをお伝えしたく、手紙を送ります。実は、秋夕(チュソク=旧暦の8月15日)にアンナプルナの頂上に立ち、国民の皆さんに秋夕の贈り物をお届けしたかったのですが、それが出来ず申し訳ありません。地元の気象条件などを考慮した際、下山を決定したのは正しい選択だったと思います。もっと徹底的に準備して、10日以後に予定している再挑戦の時には必ず成功して、嬉しいニュースをお届けしたいと思います。
多くの女性の方々が私の挑戦を見て、希望と勇気を得たと話されていると聞きました。身にあまるお褒めの言葉を頂き、恥ずかしくて仕方がない一方、重い責任を感じます。私は小学校5年生の時、北韓山(ブクハンサン)の仁寿峰(インスボン)に登った時、山のことが好きになりました。大学生の時、山岳部に入ってから本格的に山に登り始めました。大学を卒業した後は週末に山に登るために、月曜から金曜まで仕事を頑張りました。
1993年、エベレスト女性遠征隊に参加する機会に恵まれた時は、まさにこれだと思いました。その時、エベレストの頂上には立てなかったのですが、ヒマラヤの雪山の魅力にはまってしまいました。これまで山に登るために、手当たり次第に仕事をしてきました。コンピューター塾の講師、電算職の公務員、学習誌の教師などなど…。お金を早く貯めたいという考えからスパゲティ食堂を開いたこともありました。数々の仕事をしながらも疲れなかったのは、「山」という目標があったからだと思います。
今時の20代を「夢を失った世代」と言うらしいですが、私はそうは思っていません。私に山という目標があるように、大勢の若者にもそれぞれやりたいことがあるはずだと思います。女性の皆さん、自分が好きな仕事をしてください。勿論、むやみやたらにすれば良いというわけではありません。私が山が好きだからと言って、仕事をほったらかして山だけ登りまくっていたら、そう長くは続かなかったと思います。好きな仕事ができるようにするには、自立することが重要です。経済的にまた精神的に独り立ちすることが欠かせません。
好きなことをやっていると、その中で夢を見つけることができます。幸せもそこにあります。他人と比較しながら、お金や名誉といったことに気を取られると、挫折することになります。好きなことそのものに夢と幸せが潜んでいるということを忘れないでください。
私が注目されている理由の一つは女性であるからだということはよく理解しています。男性であれ女性であれ、「男性は強くて女性は弱い」という考えを持っています。男性中心の組織ではなおさらです。山岳界も例外ではありません。誰かに頼ろうとすると、すぐ限界にぶつかります。私がやりたいことなら、「独りでもやる」という覚悟がいります。
女性が30、40代となると、現実に順応するようになると言われますね。私は登山家でも主婦でも、どの人生もすべて尊いものだと思います。肝心なのは自分の中で幸せを見い出すことです。好きなことをして、その中で幸せを見つける人になっていただければと思っています。
中年女性のファンの方にお会いすると、「そんな小さい体で、大変なことをやっていますね」とびっくりされることが多くあります。その通りです。私のような人でもやりたいことをやっています。皆さんにもできないことはないはずです。勇気を持って、自分がやりたいことに果敢にチャレンジしてみてください。年齢はあまり重要でありません。私の夢も今始まったばかりですので。
敬具
(アンナプルナより登山家オ・ウンソン)