86年11月17日、国内のある朝刊新聞が、「金日成(キム・イルソン)死亡」ニュースを号外で伝えた。事実なら世界的な特ダネだった。別の新聞も、半信半疑の情報関係者の話を引用し、「金日成死亡」または「金日成死亡説」を相次いで報じた。翌日、このニュースは誤報であることが明らかになった。金主席はその後8年間生き、94年7月8日に死亡した。誤報の渦中でタイトルを「死亡」ではなく、「死亡説」とつけたある新聞の編集者は、言論人団体から賞を受けた。
◆金日成死亡の誤報当時は、北朝鮮はニュース圏外だった。事実かどうかを確認するチャンネルがきわめて制限されており、ニュースを扱うことは非常に難しかった。韓国の情報機関は、その時も今も「秘密主義」を守っている。北朝鮮の動向を知っているという事実が、明らかになること自体、セキュリティ事項だ。知っていることが明らかになれば、北朝鮮は直ちに情報遮断対策を取るためだ。しかし、国民の関心が高い懸案については、説明するほうが望ましいと思われる時もある。
◆2000年代に入り、携帯電話のおかげで北朝鮮関連の報道の様相も変わった。北朝鮮は02年、タイの企業ロックスリーとともに携帯電話事業を始めた。04年4月22日に発生した平安北道(ピョンアンプクト)の龍川(ヨンチョン)駅爆発事故を韓国メディアが翌日、正確に報道できたのも、まさに携帯電話のおかげだった。北朝鮮はその直後、携帯電話サービスを中断した。携帯電話で遠隔操作した爆発事故と分析されたためといううわさが流れた。しかし、03年米国のイラク攻撃が、イラク政府や軍高官に対する携帯電話心理戦に成功したことが、原因だという分析がよりもっともらしい。
◆北朝鮮は昨年12月、エジプトのオラスコムと通信会社「高麗(コリョ)リンク」を設立し、携帯電話事業を再開した。加入者がまもなく10万人を上回るという。果たして内部の情報統制が、可能かが関心事だ。最近の「通貨改革」と新型インフルエンザの発生事実を外部にいち早く伝えたのも、携帯電話だった。食べることもままならない一般住民らには、1000ドルもする加入費と端末機の値段が問題だ。韓国の廃棄される端末機を送り、開放社会に引き出すことに役立ててはどうだろうか。
陸貞洙(ユク・ジョンス)論説委員sooya@donga.com